25-1
食事を終えてテーブルの上がすっきりすると、俺はプリシラとスセリ、マリアにこう切り出した。
「そろそろ『これ』をどうするか決めたいんだが」
テーブルの上に置いたのは、中心が蒼く光る宝珠。
ガルディア家の家宝の一つ、セオソフィーだ。
セオソフィーはただの家督継承のあかしではなく、強大な悪魔を封じた道具であった。
対となる紅い宝珠フィロソフィーと合わさると悪魔が封印されている空間への『門』が開くのだ。
セオソフィーとフィロソフィーが同じ場所にあっては危険だと判断したディアは、俺に二つの宝珠の片方を託したのであった。
「いっそ壊してしまうのはどうかしら」
「いや、ヘタに壊すと封印が解けかねんのじゃ」
あの悪魔が外の世界に出てきたら大惨事になる。
クロノス・ガルディアは悪魔を呼び出して使役しようと企んでいたが、俺が見た限り、とても人間が御せるような手合いではない。
そんなもの封じた道具を、俺は常に肌身離さず持っている。
正直言って、この宝珠をかなり持て余していた。
ただでさえ万能の魔書『オーレオール』まで持っているというのに……。
セヴリーヌに渡すのは……いや、それだけはぜったいにダメだ。
「ふむ」
スセリがアゴに手を添えて思案する。
なにか考えがあるようなようすだ。
「ならば、封印するか」
彼女はそう言った。
「封印する道具を封印するというのも変な話ですわね」
「まあ、そうなのじゃが、アッシュの言うとおり、こんな物騒なものを持ち歩くのはよくないじゃろう」
「スセリさまが封印されるのですか?」
「いや、ワシではない。フーガに頼もうと思うのじゃ」
フーガ?
俺とプリシラとマリアはそろって首を傾げた。
「デザートだ。食べろ」
「おおっ。うまそうじゃのう!」
ヴィットリオさんがガラスの器に桃を載せて持ってきてくれた。
話をいったん止め、俺たちは桃を食べた。
桃はとてもやわらかく、甘くておいしかった。
「今朝、市場で仕入れた新鮮な桃だ」
「とってもおいしいですっ」
「ほっぺたが落ちそうですわ」
「そうか」
ヴィットリオさんはやはり表情を少しも変えないが、俺たちがおいしそうに食べているのを見て満足しているというのはなんとなくわかった。
「それでスセリさま。フーガという方に封印を頼むのですか?」
「いや、フーガ本人300年も昔に寿命をまっとうしておる。頼むのはフーガの弟子たちなのじゃ」
「あっ、思い出しましたわっ」
マリアがぽんっ、と手を合わせてそう声を上げる。
「賢人フーガ。現代の魔法理論を生み出した高名な魔術師ですわ」
そう言われて俺も思い出した。
歴史の授業で家庭教師からそんな偉人の名を教わった記憶がある。
とはいえ、習ったのは10歳くらいのころだったからすっかり忘れていた。