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ディアは歯を食いしばりながら涙をこぼし続けている。
「クロノスに言われるまで考えもしませんでした。当主の正妻の子が、妾の子たちにどんなふうに見られているか。わたくしは本当に愚かでした。仲の良い姉弟だと思っていたのはわたくし一人だけだったのです」
なぐさめの言葉が思いつかなかった俺は、ディアを抱き寄せて背中をなで続けていた。
小さいな、ディアは。
プリシラやスセリより背は高いはずだが、俺の腕の中にいる今の彼女はとても小さく感じられた。
「アッシュさん。今だけでいいです。もう少し、こうしていてください」
「……わかった」
それからしばらく、ディアは声を殺して泣き続けた。
俺の胸は彼女の涙で濡れた。
翌日。
ディアと別れた俺たちはケルタスの街に帰ってきた。
屋敷に一人彼女を残すのは心配だったが、ディアに「わたくしはもう平気です。いずれ当主になる者として、この程度でへこたれてはいられません」と言われてガルディア家を後にしたのだった。
――アッシュさん。また、いらしてください。
――ああ。
そう別れの挨拶をして。
気丈にふるまってはいたが、さびしさを隠しきれていなかった。
それから俺たちは『夏のクジラ亭』を拠点に、冒険者として活動した。
近隣の町へ行く人々の護衛や薬草の採集、魔物の討伐といった依頼を主にこなしていった。特に魔物討伐に関しては、竜を倒した功績や魔書『オーレオール』があるおかげで、他の冒険者では敵わない凶暴な魔物の討伐を請け負うことができ、高額の報酬を得られた。
「さて、次はどの依頼を受けましょうか、アッシュ」
「……なあ、マリア」
「どうしましたの?」
「なんでお前まで冒険者になったんだ……」
俺の知らない間に、マリアはしれっと冒険者登録をしていたのであった。
マリアはガルディア家と交友を結んでからもケルタスの街に居座り、俺とプリシラ、スセリと共に冒険者として活動していたのである。
「わたくし、もう二度とアッシュのそばから離れないと決めましたの」
「おてんば娘もたいがいにしろ。両親が知ったら――」
「あら、お父さまとお母さまのお許しならとっくに受けていますわよ」
「ウソだろ!?」
かわいい子には旅をさせよ。冒険者として見分を広め、魔法の研さんを積み、ルミエール家にふさわしい娘となるのだ。
――とマリアの両親は言ったのだという。
両親は『稀代の魔術師』としてうたわれるスセリと、その後継者となった俺を信頼してマリアを旅に出したのであった。
「よかったですわね、アッシュ。もうお父さまもお母さまもあなたを『出来損ない』とは呼んでいませんのよ。それどころか、ぜひルミエール家に婿として迎え入れたいとまでおっしゃってましたのよ」
マリアは上機嫌にそう言った。
優秀な魔術を多数輩出してきたルミエール家の娘だけあって、マリアは魔法の扱いには長けている。魔物討伐でも、スセリが目を見張るほど活躍することもあった。そのせいで、足手まといを理由にして家に帰すことができなかった。