24-5
それから俺とディアは屋敷の地下牢へと足を運んだ。
牢の中でパンをかじっていたクロノスが俺たちに気付く。
クロノスは不愉快な笑みを浮かべる。
「僕の処刑方法でも決まったのかい? クローディア姉さんのことだから、とってもやさしい殺しかたをしてくれるんだろうね。さすがは次期当主さまだよ」
そんな嫌味を言われてもディアはただただ無表情で、鉄格子越しにクロノスの前に立っていた。
それから彼女は感情を殺したままこう言った。
「クロノス。あなたを追放します」
クロノスはそれを聞いて「は?」と口をあんぐりとあけた。
手に持っていたパンをぽろりと落とす。
「アッシュさんたちと話し合った結果、あなたを領地の外へ追放することに決めました。今後二度とガルディア家の領地に踏み入らないことを条件に」
クロノスはなおも目をぱちぱちさせている。
それから彼は笑った。
冷たい天井を仰ぎながら、狂ったように大笑いした。
あ然とするほどクロノスは笑い続けた。
「なるほどね! 僕なんて殺すにも値しないというわけか。姉さんらしいや」
足元に転がっているパンを思い切り踏みつぶす。
それから一転、憎悪をむき出しにしてこう言った。
「わかったよ。出ていくさ。こんなところ、もう戻ってこないよ。復讐なんてしないからご心配なく」
「クロノス。おぼえていますか」
「なにをだい?」
「幼いころのわたくしたち姉弟は仲が良かったことを」
「……冗談言わないでよ」
冷笑するクロノス。
「仲がよかったと思っていたのはクローディア姉さんだけだよ」
「え……」
「僕も、兄さんたちも妬んでいたよ。ひがんでいたよ。正妻の娘だからって、父上の愛情を一身に受けて、なに不自由なくのびのびとしていたクローディア姉さんを」
「そ、そんなわけありません! わ、わたくしたちは……」
否定しながらも動揺するディア。
クロノスは姉のそのさまを愉快そうに見ている。
「姉さんは考えたことがあるかい? 父上の妾である僕や兄さんたちの母親が、どんな思いで僕たちを育てていたか」
「そ、それは……」
「僕らはね、こう言われて育てられてきたんだよ。いつかクローディアを出し抜いて、ガルディア家の当主になりなさい――ってね」
うろたえるあまり足をふらつかせるディア。
俺は彼女の肩を抱いて支える。
クロノスはそんな姉をあざ笑っていた。
「クローディア姉さんは感謝しなくちゃいけないのさ。いつか敵として立ちはだかる兄さんたちを殺してあげた僕を」
地下牢から出る間、クロノスの狂った笑い声が延々と反響していた。
渡り廊下まできたところで、ディアが俺に胸にすがってきた。
そしてこらえきれなくなって泣き出した。
「あんなの、ディアを苦しませるためのクロノスのでたらめだ」
俺の言葉は気休めにもならなかった。