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それからガルディア家は豪勢な夕食で俺たちをもてなしてくれたのだが、弁解するのに疲れ果てた俺はどれを食べてもロクに味がわからなかった。
「お前、食べないならアタシがもらうぞ」
セヴリーヌにステーキを皿ごとひったくられたが、取り返す気も起きなかった。
「みなさんにご相談があるのですが」
食事を終えたあと、ディアがそう言いだした。
「なんじゃ。アッシュにどんな刑を下すかの相談か?」
「面白いですわね」
「それもよろしいかもしれませんね」
マリアとディアが、背筋が凍るような恐ろしい笑みで俺を見てくる。プリシラも「はわわわわ……」と身震いしていた。
「その話はいずれするとして――今回ご相談したいのは、我が弟、クロノスについてです」
クロノス・ガルディア。
ガルディア家の当主になるため、そしてセオソフィーとフィロソフィーを手に入れるため、兄たちを謀殺し、姉であるディアをも始末しようとした男。
しかし、その企みは俺たちによって失敗に終わり、今は地下牢に幽閉されている。
「皆さまもご覧になったように、クロノスは今、屋敷の地下牢で過ごしています」
「あやつの処遇をどうするか、決めかねているのじゃな?」
「そのとおりです。スセリさん」
「んなもん、死刑でいいだろ」
セヴリーヌがあっさり言ってのけた。
とはいえ、彼女の言うとおり、普通の貴族なら死刑にするのが妥当だろう。それが跡目争いに負けた者の末路。家督を継ぐために兄弟を殺した事実があるのならなおさらだ。
「そうすべきかもしれません。しかし、わたくしの思い出にはまだ残っているのです。クロノスの幼いころを。兄弟仲の良く野原を駆け回っていたころを。父上もクロノスの死までは望んでいないとおっしゃっていました」
次期当主でありながらもディアは非情な決断を下せずにいた。
「とはいえ、あやつのことじゃから、生かしておいたらまたなにを企むかわかったものではないぞ」
クロノスの性格からして、生きて牢から出したらディアに復讐するに違いない。蛇のように執念深く。
ガルディア家の今後を考えるなら、憂いは断つべきだろう。
だが……。
「クロノスは領地の外へ追放すればいい」
俺はそう提案した。
追放された身の俺がこんなことを言うなんてな。
「クロノスを処刑したら、きっとディアは苦しむ。あんなヤツのためにディアが苦しむ必要なんてないさ」
「アッシュさん……」
クロノスに自分の姿を重ねたわけではない。
俺はただ、ディアの手を血で染めたくなかっただけだ。
ディアはほっとした表情をした。
たぶん彼女はこの言葉を聞きたかったのだろう。