24-3
セオソフィーとフィロソフィーの話が終わった次は、マリアの番だった。
マリアはガルディア家とルミエール家の友好を望む手紙をディアに渡した。本来なら手紙を渡すべき相手は現当主のパスティア卿だが、パスティア卿は病にふせっているため、娘であるディアが代理として手紙を受け取った。
「ぜひとも我がルミエール家と末永き交友を。次期パスティア卿」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いいたします、マリアさん」
マリアとディアは微笑み合った。
この二人なら仲良くなれるだろう。
……ただ一つの懸念さえどうにかなれば、だが。
「マリア」
俺はマリアに耳打ちする。
「間違っても俺の婚約者だなんて言わないでくれよ」
「あら、どうして?」
平然とそう返してくるマリア。
いたずらっぽくほくそ笑んでいるということは、わかっててそう言ってるな……。
「くどいようだが、俺とマリアは単なる幼馴染だからな」
「この指輪を見ても、ディアさんは信じてくださるかしら」
マリアは薬指に指輪をはめた左手を俺に見せてくる。
昔の俺よ、どうしてこんな最強の武器を彼女に渡してしまったのだ……。
「どうかしましたか?」
こそこそと密談している俺とマリアをいぶかるディア。
「あら、マリアさん。その指輪、ステキですね」
気づかれてしまった。
マリアは得意げな顔をしながらこう言った。
「アッシュがわたくしにくださったの。婚約のあかしとして」
ピキッ。
という音が明らかに聞こえてきた。
ディアは微笑みをたたえたまま凍りついていた。
「そ、そうですか」
かろうじてそう答えるディア。
それから彼女の視線が俺に向けられる。
ぷくーっ。
眉をひそませたディアは、破裂しそうなほどほっぺたを膨らませていた。
まさか、俺のせいでルミエール家とガルディア家の交友が破綻しないよな……?
「ちょっと待ってくださーいっ」
そこにまさかのプリシラが乱入してきた。
「指輪ならわたしもアッシュさまからもらいましたーっ」
そう言って彼女は指輪をはめた手を高々と掲げた。
マリアが「なっ!?」と目玉がこぼれ落ちんばかりに仰天する。
ディアもあんぐり口を開ける。
「で、ですので、指輪を持っているからといって、婚約のあかしということにはならないのではないかと。ですよねっ、アッシュさまっ」
忘れていた。最強の武器はプリシラにも渡したのだった。
どうやらプリシラは窮地に陥った俺を助けるつもりでそうしたらしい。
だが、残念ながらそれは逆効果になっていた。
俺はついに断崖絶壁まで追いやられることになったのであった。
そんな俺たち四人のやりとりをスセリは愉快そうに、セヴリーヌはくだらなそうに見物していた。
「昔のワシとおぬしもリオンをめぐってこんな茶番を繰り広げておったのう」
「リオンはこんなマヌケじゃなかったぞ」
俺はマリアとディアに弁解するのに長い時間を要したのであった。