24-2
「セオソフィーとフィロソフィーに悪魔が封じられていたなんて……」
後日、俺たちはパスティアにあるガルディア家の屋敷へと赴いた。
そしてディアと彼女の父であるパスティア卿に、二つの宝珠に封じられた悪魔について話したのだった。
ディアは心底驚いていたが、パスティア卿はどうやらそのことについて知っていたらしい。
かつてガルディア家の人間が魔界より現れた悪魔と戦い、宝珠で作りだした異世界に封じた。
ガルディアの当主となる者は、二つの宝珠を継承する際、先代からその話を聞かされるのだという。
「クロノスはその悪魔を使役するのが目的だったのかもしれませんね」
「まあ、確かにあんな怪物を手下にできれば、他の領主と戦争になっても容易く勝てるじゃろうな」
真相を確かめるため、クロノスに会いにいった。
クロノスは以前、俺たちが捕まっていた地下牢に入れられていた。
俺たちの姿を見るなり、クロノスは忌々しげに顔をゆがませた。
「僕を笑いにくるためにはるばるご苦労。ランフォード家の出来損ないくん」
そんな皮肉を言われた。
プリシラとマリアがむっとしてクロノスの前に出ようとしたのを俺が「相手にするな」と制した。
俺たちはクロノスに宝珠の悪魔について問いただした。
するとクロノスはあっさりと「ああ、そのとおりさ」と答えた。
「ナイトホークが言ってたんだよ。宝珠の中に悪魔が封印されていて、解き放てば従属できるって。どんな国の軍も敵わない最強の悪魔だってね」
「ナイトホークがなぜ、ガルディア家の家宝の秘密を知っていたのですか」
「さあね」
「クロノス、教えなさい」
「知らないよ。アイツの正体は僕にだってわからない。ただの利害関係で成り立ってただけさ」
結局、クロノスも詳しくは知らないらしかった。
「もうお前たちに話すことはないよ。だからとっとと消えろ」
不愉快をあらわにクロノスはそう吐き捨てた。
俺たちは牢屋を後にした。
「この宝珠は、二つそろっていたら災厄の引き金になりかねませんね」
今、セオソフィーとフィロソフィーはディアの手にある。
彼女はいずれ家督を継承し、ガルディア家の当主となる身。災厄を宿したこの宝珠を守る義務を負うことになる。
ディアは危惧しているのだろう。クロノスのような野心を持った人間が再び現れるのを。
目を閉じて考え込むディア。
それから目を開けると、蒼の宝珠セオソフィーを俺に差し出してきた。
「セオソフィーをアッシュさんに託したいのですが、どうでしょうか」
「ちょっ、ちょっと待て。俺は単なる冒険者だぞ。あまりにも荷が重すぎる」
俺が受け取るのを拒むも、ディアは「いいえ」と言う。
「アッシュさんは万能の魔書『オーレオール』の継承者です。悪魔を封じし宝珠の片方を預けるのにふさわしい方だとわたくしは思います」
「『稀代の魔術師』たるワシもおるからな」
「けど……」
「いらないならアタシによこせっ」
セヴリーヌがディアの手からセオソフィーを奪う――寸前、スセリが先にセオソフィーを取ってセヴリーヌの強奪を防いだ。
からぶったセヴリーヌはよろけて床に転んだ。
「お前はダメじゃ」
「なんでだよッ」
セヴリーヌにだけは渡しちゃダメだな……。