24-1
「悪魔……」
溶岩のような赤い皮膚。
禍々しいヤギの頭。
筋肉質な人間の胴体。
その怪物はまさしく、地獄から生まれし悪魔と呼ぶにふさわしかった。
悪魔は両手足を鎖で縛られ、身動きを封じられている。
それでも悪魔は束縛を解こうと手足を必死に動かしており、ガチャガチャと鎖の鳴る音が絶えずしていた。
「グオオオオッ!」
雄たけびを上げる。
身をすくませるプリシラとマリア。
スセリとセヴリーヌも驚愕している。
「セオソフィーとフィロソフィー。二つの宝珠はこの悪魔を封じるために作られたのじゃな」
「この悪魔、危険なのか」
「外に放たれれば街ひとつは容易く滅ぼすじゃろう」
ガルディア家はどうしてこの悪魔を封じた宝珠を持っていたのだろうか。
こればかりはディアの父、パスティア卿にでも尋ねないとわからないだろう。
悪魔は今も狂った叫び声を上げながらもがいている。
さすがのセヴリーヌも目の前の光景におののいていた。
「まさかクロノス・ガルディアは、こいつを使役しようとしてたのか」
「だとしたら、とんだばかげたことじゃ。普通の人間がこのような悪魔を従えられるわけがない」
もし、クロノスから二つの宝珠を取り戻していなかったら、大惨事になっていたわけか……。
「どうする、スセリ。『オーレオール』の力でこいつを倒すか」
「いや、やめておいたほうがよい。ヘタに触ればなにが起きるかわからんのじゃ」
そのとき、悪魔の両眼が赤く光った。
「障壁よ!」
俺は反射的に防護の魔法を唱えた。
障壁が目の前にせり上がってくるのと、悪魔の目から光線が放たれたのはほぼ同時だった。障壁は光線を受け止めて粉々に砕け散って消滅した。
「ここにいては危険じゃ。さっさと退散するのじゃ」
「わ、わかった……」
俺たちは悪魔が封じられた部屋から退散した。
セオソフィーとフィロソフィー。
二つの宝珠はただの家督継承者のあかしではなく、強大な悪魔を封じた道具であった。
ガルディア家は悪魔を外の世界に出さないため、子々孫々と宝珠を受け継いできたのだろう。
だとすると、クロノスは誰から知ったのだろう。宝珠が特別な力を持っていることを。
まさか、ナイトホーク……。
ナイトホークが「強い力が眠っている」とそそのかしたのかもしれない。
強大な力が二つの宝珠に眠っているのを知ったクロノスは宝珠を手に入れるのを目的に、家督継承をその手段にした。だからクロノスは家督より宝珠に固執していた。
すべては憶測だが、そう考えるのが自然だ。