23-6
「プリシラにそんな特技があったなんて……」
マリアがそうつぶやく。
「俺も最初は驚いたよ。夜の真っ暗な森の中だったのに、出口まで案内してくれたんだからな」
俺に褒められたプリシラは「てへへ」とくすぐったそうにしている。
マリアはなにやら難しい顔をして考えごとをしている。
「こ、このままではプリシラに差をつけられてしまいますわ……」
焦っているようす。
そんな彼女にスセリはニヤリとしながらこう言った。
「おぬしには美貌があるじゃろう」
「美貌?」
「さよう。おぬしの美貌でアッシュを誘惑すればよいのじゃ」
そう言われたマリアであったが、彼女はいまいち納得できていない感じだった。
自分が美少女であるのを自覚していないからだろう。
マリアはすれ違った誰もが振り向くほど美しい。
裕福な貴族ゆえ、いつも上等な衣装を身にまとっているが、それを抜きにしても彼女は整った顔立ちや豊満な胸といった、生まれ持った美しさを持っていた。
俺だって実際のところ、マリアに言い寄られて悪い気はしない。
「アッシュ。わたくし、美しいんですの?」
「ああ。間違いなくきれいだぞ」
「なら、どうして結婚してくださらないの!?」
「ええっ!?」
マリアに憤慨されて俺は戸惑った。
「わたくし、アッシュと結婚すると心に決めていますの。結婚の縁談も全部断わってますのよ」
「まさか、両親には――」
「『アッシュと結婚するから』といつも言っていますわ」
どうりでルミエール家から嫌われていたわけだ……。
マリアは悲しげな表情をして俺に訴えてくる。
「アッシュ。どうしてわたくしと結婚してくださらないの? わたくしがきれいだというのなら、他になにか足りないものがありますの?」
困ったな……。
俺は彼女から目をそらして頭をかく。
スセリはニヤついているし、セヴリーヌは心底退屈そう。プリシラはハラハラとした面持ちで俺とマリアを交互に見ている。
マリアに足りないもがあるとか、そういう話ではない。
俺はまだ、誰かと結婚するという気持ちになっていないだけだ。
冒険者として旅をしている身だから、余計に。
そう俺はマリアに伝えた。
「なら、恋仲にならなってくれますの?」
「いや、それも……」
「もうっ。アッシュ! わたくしとお付き合いしなさいっ!」
命令口調!?
優柔不断な態度をとり続けたせいで業を煮やしたマリアは、俺をびしっと指さしてそう命じてきた。
俺は言葉を詰まらせて硬直していた。
俺とマリアの間にプリシラが割って入る。
「マリアさま。アッシュさまが困っていらっしゃいます」
「アッシュが悪いんですわ」
「恋愛とはお互いの気持ちがそろって初めて成り立つものだと思います」
それでマリアは口ごもった。
「で、でも、アッシュはわたくしのことを――」
「あー、立て込んでいるところ悪いのじゃが」