23-5
「よし。セヴリーヌを見つけたことだし、帰るか」
「帰るだと?」
俺の言葉にセヴリーヌが眉をひそめる。
「アタシは帰らないぞ。ここにはきっとなにかがある。それを見つけるまでな」
「おいおい……」
「帰るならお前たちだけで帰れ」
そう言われたところで、彼女を一人ここに残すわけにはいかない。
だがしかし、セヴリーヌは意地でもここを探索する気だろう。セオソフィーとフィロソフィーの調査をずっと楽しみにしていたのだから。
「また抜け殻兵士が現れたらどうするつもりなのじゃ」
「そのときはなんとかする」
平然とそう答えるセヴリーヌ。
やっぱり心配だ……。
マリアもプリシラも彼女を心配しているようす。
「じゃあな」
セヴリーヌは赤いカーペットの上を歩いて玉座の間の出口に向かっていった。
俺たちは慌てて彼女の後を追った。
そういうわけで、俺たちはこの異世界の城の探索をすることになった。
城の内部は一般的な城とは違うらしく、ひたすら長い廊下の一本道が続いていた。曲がり角がいくつもあり、ときどき道が二手に分岐して、片方は行き止まりだった。
城というよりも、巨大な迷路だ。
「あ、扉ですよ」
廊下の途中に扉があった。
「なにかあるかもしれないぞっ」
わくわくしながらセヴリーヌが扉を開け放った。
中に入ると、そこはベッドとテーブルと本棚があるだけの小さな部屋だった。
迷路の途中にはそんな部屋がいくつもあり、セヴリーヌはそのたびに期待と落胆を繰り返すのであった。
「行き止まりですわ」
間違えた分岐を進んで行き止まりにぶつかるのも、これで五回目だった。
なにもない部屋に入ったのも五回……いや、六回目だったか。とにかく、俺たちは無意味な部屋がいくつもある長い迷路をひたすら歩き続けていた。
「くっそー。またハズレか。やっぱりこの迷路の一番奥になにかがあるんだな」
「危険なものだったらどうするつもりなんだよ。セヴリーヌ」
「そのときはなんとかする」
「またそれかっ」
「あ、あのー」
プリシラがおずおずと手を上げる。
「すごく今更なんですけど、帰り道ってみなさんおぼえてます?」
「……あ」
まったくおぼえていない……。
迷路の出口を求めてむやみに歩いていただけで、帰りのことなんかちっとも頭になかった。
「ワシは知らんぞ」
「アタシもおぼえてない」
すごく他人事のように言う魔術師二人。
これってかなりまずいのでは……。
顔を青ざめさせる俺とマリアにプリシラが「だ、だいじょうぶですよっ」と言う。
「わたしがにおいでたどればいいですから」
「におい、ですの?」
「はいっ。においですっ」
そうだった。半獣のプリシラは鼻が利くのだった。
森で迷子になったときも、彼女がにおいで道をたどって出られたのだった。
ふしぎそうにするマリアに俺がそう説明した。
「帰り道はこのプリシラにおまかせくださいっ」
とプリシラは自信満々、胸をぽんと叩いたのだった。