3-1
それから三日後。
護衛依頼の約束の時刻になって街の門の前へ訪れる。
そこにはワンピースを着た金髪の令嬢、マリアがいた。
俺の姿を認めると手を振ってくる。
「お待ちしていましたわ、アッシュ」
マリアは一人で俺たちを待っていた。
召使いのメイドや執事はいっしょじゃないのか……?
「他に誰もいないが、お前一人で社交パーティーに出席するつもりなのか?」
「いいえ。召使いたちや両親は先に行ってもらいましたわ」
「な、ならお前もいっしょに行けばよかっただろ?」
「アッシュに仕事を差し上げるために、わたくしは遅れていくことにしましたの」
感謝なさい、と言いたげな表情をマリアはしていた。
一人遅れて行くなんて、両親にどんな言い訳を使ったんだ……。
「それでは出発しましょう」
マリアはそばに停めてあった馬車に乗り込んだ。
馬車は街道をゆっくりと走る。
石に乗り上げてときおり激しく上下に揺れる。
初めて馬車に乗ったというプリシラは窓枠に手をついて、流れゆく窓の外の景色を眺めていた。
窓の外の風景は一面麦畑。
風に緑の麦がそよそよと揺れている。
のどかな光景だ。
「そういえば、スセリさん、でしたっけ? あの銀髪の子はいませんの?」
「あいつならここにいるさ」
俺は魔書『オーレオール』をマリアに見せた。
首をかしげるマリア。
俺がこのランフォード家の家宝を継承したこと、そしてこの魔書に初代当主のスセリの魂が封じられていたことをかいつまんで説明した。
「本に魂を封じるとは……。とても熟達した魔術師だったのですわね。スセリさん――いえ、スセリさまは」
「今は新しい身体をさがしている最中さ」
「それにしてもすばらしいですわ、アッシュ! ご初代さまに認められるだなんて」
マリアが俺の手を握る。
「わたくし、信じてましたのよ。アッシュは立派な召喚術師になれると。いにしえの封印を解く力を持っていましたのね」
――そのとおり。アッシュ、おぬしは選ばれし者じゃ。
『オーレオール』から声が聞こえてきた。
「このことをわたくしの両親に話せば、きっとアッシュとの交際を認めてくださいますわ」
「交際!?」
プリシラが耳をぴん、と立ててこちらを振り向いた。
「こここ交際って、お付き合いという意味ですか!?」
「そうですわ。結婚を前提とした」
「はわわわ……」
プリシラの目がぐるぐる回る。
「悪いがマリア。俺はお前と付き合う気はない」
俺は真っ向から断る。
俺が交際を拒むのが理解できないらしいマリアは「どうしてですの?」と尋ねてきた。
「わたくしたち、子供のころから仲が良かったでしょう?」
「だからといって恋愛感情までは持っていない」
「指輪をくれたではありませんの!」
当時、7歳だった俺は女性に指輪を渡すことの意味なんて知らなかったのだ。
そのツケがまさか、こんなところでくるとはな……。
「わたくし、前々から決めていましたの。アッシュをルミエール家の婿として迎えることを」