23-4
玉座の間にセヴリーヌが現れる。
彼女は必死の形相でカーペットの上を走り、俺たちの前までやってきた。
セヴリーヌが俺たちに気付いて驚く。
「お前ら、どうしてここに……」
ガシャンガシャンガシャン……。
玉座の間の入り口の向こうから、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
それは鎧を着た者が歩く音だった。
銀色の甲冑をまとった大勢の兵士が俺たちの前に現れた。
セヴリーヌが「ひえっ」と短い声を上げて俺の背後に隠れる。
どうやら彼女はこいつらに追いかけられてたらしい。
「お前! こいつらをどうにかしろ!」
兵士たちが手に持った槍を水平に構え、じりじりと俺たちに寄ってくる。
兵士たたちは一言も発しない。ただ槍の穂先を俺たちに向けるばかり。
ここは宝珠の中の異世界。この兵士たちもおそらく普通の人間ではないのだろう。
ためらってはいられない。
「風よ!」
俺は魔書『オーレオール』の魔力を借りて空気を圧縮した弾を放った。
空気の弾が兵士の一人に直撃し、兜を吹き飛ばす。
兜を失った兵士の姿を見て、俺たちは驚愕した。
兜の下にあるはずの頭がなかった。
甲冑をまとった兵士かと思っていたが、中身は空っぽで、甲冑だけで動いていたのだ。
「抜け殻兵士、とでも言っておくかの」
甲冑だけで動く兵士にスセリはそう名付けた。
魔物なのか、こいつら……。
吹き飛ばされた兜は空中を浮遊し、胴体に戻った。
「雷よ!」
今度はもっと威力のある、稲妻の魔法を放った。
幾重にも折れながら雷が走り、抜け殻兵士の一体に直撃する。
その衝撃で抜け殻兵士の甲冑がバラバラになって玉座の間に散らかる。
しかし、バラバラになった甲冑は意思を持っているかのように動き出し、集合し、再び元の姿に組み上がった。
「こいつら、倒しても倒してもキリがないんだ」
だからセヴリーヌは逃げてきたのか。
「わ、わたしたちは敵じゃありませーんっ」
プリシラがそう訴えるも、抜け殻兵士たちは槍を収めようとはしなかった。
ゆっくりと歩きながら俺たちへと近づいてくる。
たぶん、自我を持っていないのだろう。
「ど、どうしますの? アッシュ」
「アッシュさま……」
マリアとプリシラは俺を頼っている。
命を持たない相手を倒す方法……。
焦りながらも俺は必死に考える。
そして俺は一つの案を思いついた。
『オーレオール』を片手に、俺は頭の中で呼び出すものを思い描く。
その姿が鮮明になった瞬間、召喚術を唱えた。
「来たれ!」
抜け殻兵士たちの真上に巨大な魔法円が出現した。
そしてそこから岩石が次々と現れ、抜け殻兵士たちの頭上に落下していった。
俺は召喚したのだ――鉄に精錬されるまえの鉱石を、岩石ごと。
岩石に押しつぶされた抜け殻兵士たちは、死にはしなかった。
しかし、押しつぶされて曲がったりへこんだりした甲冑ではまとも動くことも組み上がることもできず、バラバラになったままその場でもだえるばかりだった。
こうなってしまえば、もはや脅威ではない。
スセリが「ほう」と面白そうに言う。
「不死の魔物を無力化させるとはの」
「やるじゃんか」
セヴリーヌまでも俺の機転に感心していた。