23-2
「ウルカロスさま、こんにちはっ」
プリシラがあいさつする。
「本日もよいお日柄ですね、プリシラさま」
ウルカロスも丁寧にあいさつを返した。
マリアはウルカロスの石でできた巨体をしげしげと眺めている。
「あなた、ずっとここに立っていて暑くありませんの?」
「平気です。ゴーレムですので」
どうやらだいじょうぶらしい。
「ウルカロス。セヴリーヌは元気か」
「おそらくはお元気かと」
「おそらく?」
「転移魔法でご帰宅されてから今日まで、一歩も外に出ていないのです。魔法の研究に夢中になるとそうなってしまうのでございます」
「なら、俺たちが確かめてくるよ」
「よろしくお願いいたします」
……が、しかし、ウルカロスは家の扉の前からどこうとしない。
「……なあ、そこをどいてもらわないと家に入れないんだが」
「申し訳ありませんが、スセリさまはお通しできません。抹殺対象ですので」
それ、まだ有効だったのか!?
「おぬしの主の安否を確かめるのじゃ。例外として入れるのじゃ」
「承知しました。どうぞ、お通りください」
そういうわけで、俺とプリシラ、マリア、スセリの四人はセヴリーヌの家へと入ったのであった。
「セヴリーヌ。じゃまするのじゃ」
「セヴリーヌさまーっ」
家の中に踏み入ったものの、中はもぬけの殻だった。
ノノさんの家と同様、家の中は散らかり放題。足の踏み場もないとはこのこと。泥棒に入られたかのようだ。
俺たちは床に転がる変な道具の数々を避けながら、奥の部屋へと進む。
奥の部屋は魔法の研究室らしかった。
少し広いこの部屋だけはきっちり整理整頓されていた。
「な、なんですの……これ」
部屋の床には魔法円が描かれていた。
魔法円の中心に置かれているセオソフィーとフィロソフィー。
そしてその真上の空間に、コーヒーにミルクを垂らしてかきまぜたかのような、白と黒の渦が生じていた。
異様な光景だった。
「……ふむ。これは『門』じゃな」
「門?」
「この変な渦が、ですの?」
「魔法で生み出した、別の空間へと続く入り口なのじゃ」
そうスセリが説明した。
白と黒の渦はぐるぐると回り続けている。
俺たちは呆然としながらそれを眺めていた。
スセリが魔法円の中心から蒼いほうの宝珠を取ると、門が音もなく消滅した。
元の位置に戻すと、二つの宝珠が光りだし、再び渦が生まれた。
「どうやら二つの宝珠がこの門を生み出しているようじゃ」
「門の先にはなにがありますの?」
「わからん」
「セヴリーヌさま、もしやこの門をくぐったのでしょうか」
「おそらくそうじゃろうな」
おもむろに渦に腕を突っ込むスセリ。
「ひゃっ!」と声を上げるプリシラとマリア。
スセリの腕は渦の中に沈んでいったが、彼女は平然としていた。
「よし、入ってみるのじゃ」