22-7
「どうした?」
扉を開けてマリアを招き入れる。
「街を散策いたしたいの。アッシュ。街の案内をわたくしにしてくださいまし」
「別にいいぞ。せっかくだからスセリとプリ――」
「わたくしと! アッシュの! 二人で!」
ぐいっとマリアが詰め寄ってきてそう主張した。
彼女に気圧された俺はのけぞってしまった。
どうやら『二人で』のところが重要らしい。
「どうして二人でなんだ?」
「ふふっ。そんなの言うまでもないでしょう?」
マリアが口に手を添えて笑う。
それから俺の手を取って引いてきた。
「さあ、行きましょう」
俺はマリアの手に引かれるまま『夏のクジラ亭』を出た。
観光者向けの露店が並ぶ西区の表通りを歩く俺とマリア。
マリアは露店に並ぶ珍品を興味深げに眺めている。珍しがっているだけで別に欲しいわけではないらしく、店の人に「これどうだい?」と勧められても「遠慮いたしますわ」と笑顔できっぱり断っていた。
「アッシュ。これ、つけてみてくださらない?」
マリアが手に取ったのはいかにも呪いがかかっていそうな、禍々しい顔をしたお面だった。
つけたら外れなくなりそうだ……。
俺はおそるおそるお面を身に着ける。
「似合ってますわよ……うふふっ」
マリアがこらえきれずに笑っていた。
露店を見た後は南区の繁華街へ。
都会の華やかな街並みにマリアは胸をときめかせていた。
マリアがうっとりするのも当然だ。
繁華街にはおしゃれな建物が無数に立ち並んでいて、見ているだけでわくわくする。そんな街をさまざまな人たちが絶えず行き交うようすは、田舎から来た俺たちにとって刺激的だった。
「それにしても、本当にたくさんの人がいますわね」
まるで流れる川のように、通りには人の流れができている。
うっかりしていると流れに呑まれてしまう。
マリアは俺の手をしっかりと握っていた。
「どこか店に入ってみるか?」
「それもいいけれど、わたくし、次は海へ行きたいですわ」
マリアの希望に応え、浜辺へとやってくる。
太陽に熱された白い砂浜が街に沿って続いている。
青くまぶしい海原。
目を細めると、遠くに帆を張った船が見えた。
マリアは靴と靴下を脱いで波打ち際へと近づく。
寄ってきた波に彼女の足首が浸かる。
「きゃっ」
冷たかったのか、かわいい声を出した。
それからマリアはスカートのすそを持ち上げながら海へと近づいていき、くるぶしが浸されるまで海に入った。
そして今度は海に手を入れて、海水を空に振りまいた。
きらきらとしずくが輝く。
マリアはむじゃきにはしゃいでいた。
「アッシュもいらっしゃいなー」
マリアが俺に手を振る。
俺も靴を脱いでズボンのすそを上げ、マリアのそばまで行った。
二人そろって海に浸かる。
「海って気持ちいいですわね」
「なめてみろよ。しょっぱいぞ」
俺に促され、海につけた指先をぺろりとなめる。
「ホントですわっ」
マリアはおかしそうに笑った。
それから俺たちはマリアの気の済むまで海で遊んだ。
マリアは太陽に負けないほどのまぶしい笑顔を俺に見せてくれたのだった。
いつもよりもずっと魅力的に彼女が映った。
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