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22-6

「ステキな街ですこと!」


 海を一望できる華やかな街並みに心を躍らせるマリア。

 これほどまでの大きな街に来たのは初めてなのだろう。


 行き交う人々。

 呑み込まれそうになるほどの雑踏。

 道端で陽気な音楽を奏でる旅の楽団。

 軒を連ねるさまざまな装いの店。


 箱入り娘を興奮させるにはじゅうぶんすぎた。

 そんな彼女であったが、華やかだった表通りから、西区のうら寂しい路地裏に連れていかれると、だんだんと不安な面持ちになってきた。


「だいじょうぶですの? アッシュ」


 そして俺たちは宿屋『夏のクジラ亭』へと帰ってきた。

 マリアはまだクラリッサさんに会ったことも、ヴィットリオさんの料理を食べたこともないから、お世辞にもしゃれているとは言いがたい装いの店を前にして「ここに泊まりますの……?」と心配そうにしていた。


「おかえりなさいっ」


 店に入ると、受付の前に立っていたクラリッサさんが待ちかねたように駆け寄ってきた。

 そして愛情を込めてスセリを抱擁する。

 そのうえ頬ずりまで。


「無事に帰ってこれたようでよかったわ。心配していたのよ」

「それはともかく、なぜ毎度ワシを抱きしめるのじゃ……」

「あら、新しい子がいるわね」


 クラリッサさんがマリアに気付く。

 スセリを力いっぱい抱きしめるクラリッサさんに面食らっていたマリアであったが、クラリッサさんと視線が合うとスカートの端を持ち上げて上品にお辞儀した。


「わたくし、ルミエール家の娘、マリアと申します」

「お行儀の良い子ね。好きなだけつくろいでちょうだい、マリアちゃん」

「お言葉に甘えさせていただきますわ」

「クラリッサさまの旦那さまはこのお店の料理人をしていまして、すっごくおいしい料理を作られるんですよ」


 プリシラがそう説明した。


「帰ってきたか」


 ウワサをすれば。

 ヴィットリオさんが食堂へと続く廊下を歩いて俺たちのもとまでやってきた。

 ヴィットリオさんの鋭い視線がマリアに刺さる。

 びくりとすくみ上るマリア。


「マ、マリアと申します……」

「ヴィットリオだ。ここのコックをしている。ゆっくりしていけ」

「お、お料理、楽しみにしていますわ」

「ああ。期待していろ」


 そっけなくそう言って食堂に戻っていってしまった。

 マリアは目をまんまるにしていた。

 クラリッサさんは「ああいう人なのよ」と苦笑しながら肩をすくめた。


 それから宿泊者名簿に名前を書いてから俺とプリシラ、スセリ、マリアはクラリッサさんからカギをもらい、各々の部屋に入った。

 部屋の隅に荷物を置いてからベッドに腰掛ける。


 さて、これからどうするか。

 夕食までまだ結構な時間がある。

 セヴリーヌが無事に転移できたか確かめにいくか。


「アッシュ。いまして?」


 マリアがそう言いながら扉をノックしてきた。

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