22-5
ノノさんが本棚を漁りだす。
「この本だったかしらー。違うわー。こっちかしらー」
ポイポイポイッ……。
ノノさんは次から次へと本を開いては床に放り投げていく。
「せっかくきれいにしたのに散らかさないでくださーいっ」
プリシラが悲痛な叫び声を上げた。
結局、人間の姿にする薬の錬金方法が記された本は見つからなかった。
「スセリ。『オーレオール』を使えば竜を人間にできないか?」
「ワシはその手の魔法は研究しておらんかったのじゃ」
「ざんねーん」
がっかりしたノノさんであった。
「村の男と結婚して、こき使えばいいのじゃ」
「そういえばノノさん、村の男の人に言い寄られたりしないんですか?」
「そうねー。お付き合いの申し出は何度もあるわ。ぜんぶ断わってるけど」
やはりか。
ノノさんはかなりの美女である。他の村人の女性と比べて服装も垢抜けている。都会のケルタスでも通じるほどの美貌の持ち主だ。村の男性たちが放っておくわけがない。
「最近、お付き合いの申し出をしてくる人がいないなーと思ったら、村の男の人全員、振っちゃったみたい」
うふふ、とノノさんは笑った。
「ノノ。おぬしはどんな男が好みなのじゃ?」
「うーん……。そういうの真剣に考えたことがないからわからないんですけど……」
と、いきなりノノさんが俺の首に腕を回して抱きついてくる。
「アッシュくんならいいかなっ」
「アッシュ!」
「アッシュさまっ」
マリアとプリシラが俺をにらみつけてきた。
俺は悪くないだろ……たぶん。
それからマリアとプリシラは二人がかりで俺からノノさんを引きはがした。
スセリは「やれやれ」と肩をすくめていた。
ノノさんの家を出た俺たちは村の広場へと行く。
広場には巨竜アスカノフがいて、その周りには子供たちが群がっていた。
人気だな、アスカノフ。
アスカノフもまんざらではないようすで子供たちを背中に乗せていた。
「アッシュか」
アスカノフが俺たちに気付いた。
「どうだ、人間との暮らしは」
「平穏だ。少々退屈だが、こういうのも悪くない」
村の大人たちは竜と子供たちがたわむれるのを微笑ましげに眺めている。
どうやら村人たちとの関係もうまくいっているようだった。
「アッシュよ。お前のおかげだ。感謝する」
「竜と人間が共存するなぞ、ワシは考えもしなかったのじゃ」
竜の眼球やウロコ、爪や牙は高値で取引されているという。
つまり、人間にとって竜は狩猟の対象なのだ。
「ワガハイの力、必要とあらばいつでも貸そう」
それから俺たちは村一泊し、翌日、村を発った。
せんべつとしてノノさんが錬金術で作ったという焼き菓子を山ほどもらった。
俺たちは馬車に揺られながら焼き菓子を分け合った。
そしてアークトゥルス地方へと続く森を抜け、大都市ケルタスへと戻ってきた。