22-2
翌日。
俺たちは再びアークトゥルス地方へ行くため、ランフォード家を発つことになった。
たった一日で実家を後にする。
普通ならもっと長い間留まるのだろう。
しかし、俺はそうはいかない。
父上や兄たちは俺が早くいなくなることを望んでいるのだ。
玄関の前に集まる俺とプリシラ、スセリ、マリア、セヴリーヌ。それとゴーレムのウルカロス。
見送る者は一人としていない。
「さてと、帰るか。おい、アッシュ」
セヴリーヌが俺にこう命じた。
「お前、転移魔法は使えるよな」
「一応な。それがどうした」
「転移魔法でアタシをケルタスの街まで送れ」
俺は「えっ!?」と声を出してしまった。
スセリが以前言っていたし、『オーレオール』を読んで勉強したから知っている。転移魔法は、対象をいったん消滅させて、指定した地点で再構成させる原理でできている。つまり、死んで生き返らせるのを一瞬で行っているも同然なのだ。
転移魔法がそんなおっかないものだとセヴリーヌも知らないはずがない。
なのに彼女は平然と俺に転移を命じてきたのであった。
「ケルタスまでなんて……。そんな長距離の転移、成功するかどうかわからないぞ」
「アタシは早く宝珠の研究がしたいんだっ」
子供みたいに駄々をこねるセヴリーヌ。
しかし、俺はそんな遠くへ無事に転移させられる自信がない。
転移したら空高くに出現したり、あるいは海の中に出現したり、あるいは壁の中――なんて事態になる可能性はじゅうぶんにある。
「まあ、本人の望み通りやってやるがよかろう。転移魔法を練習するよい機会なのじゃ」
「し、失敗しても恨むなよ……」
「いいからとっととやれ」
俺は『オーレオール』を片手に持ち、もう片方の手をセヴリーヌにかざす。
流れ込んでくる魔力を手に集中させる。
そして呪文を唱えた。
「転移せよ!」
その瞬間、セヴリーヌの姿が光の粒子となって霧散し、消滅した。
光の粒がわずかに辺りを漂っていたが、やがてそれも消えた。
「せ、成功したのでしょうか……」
「わからん。まあ、失敗したとしても自業自得なのじゃ」
のんきだな、スセリは。
と、そのとき、ウルカロスの足元に魔法円が浮かび上がった。
魔法円が光り輝き、ウルカロスを白い光で包む。
そして閃光が一瞬、視界を遮る。
視界が元に戻ると、ウルカロスの姿は忽然と消え失せていた。
「ウルカロスさまが消えてしまいました!」
「セヴリーヌが召喚魔法を使って自分のもとに呼び寄せたのじゃろう」
「ということは、セヴリーヌさんの転移は成功したということですわね」
少なくとも、生きてはいるようだ。