2-7
マリアは昔からそうだった。
自分が世界の中心だと思っている節がある。
わがままは必ず通るものと信じており、周りの環境がそうするのを許してきた。
「マリアさま、相変わらずでしたね」
プリシラがミートパイを食べながら言った。
俺たちは街の大衆食堂で昼食を食べていた。
「すまないな、プリシラ。あいつのワガママに巻き込んでしまって」
「いえ、そんなことありません。とても報酬のよい依頼を受けられて、逆に感謝しなくてはいけないくらいですっ」
ぶんぶんと首を横に振るプリシラ。
いじらしいな、プリシラは。見ていると自然と笑みがこぼれてくる。
「マリアさまは心配しているのでしょうね。ランフォード家を追放されたアッシュさまを」
「いんや、絶好の機会だと思っておるかもしれんぞ」
スセリが話に割り込んでくる。
「アッシュを己のものとする、な」
「ええっ!?」
「これからもあの娘はアッシュを指名して依頼を出し続け、自分がいないと生活が成り立たないようにするかもしれんぞ」
ありえる。
じゅうぶんにありえて怖かった。
マリアならやりかねない。
「まあ、幸先がよいではないか。さっそく支援者を得られたのじゃからな」
冒険者という仕事は常に危険を伴うし、収入も安定しない。
だとすると、マリアの支援は必要なのかもしれない。
「マリアの両親が許さないさ。『出来損ない』の俺を養うだなんて」
「アッシュさま!」
どんっ。
プリシラが勢いよくテーブルに手をついて立ち上がった。
いきなりのことに目をしばたたかせる俺とスセリ。
波打つコップのミルク。
スセリの手からぽろりと落ちるミートパイの一切れ。
プリシラが怒っている……?
彼女の頭の頂点から生える獣耳はぴんと立っており、目は鋭く細められ、口は堅く結ばれていた。
その怒りもつかの間、それから彼女はしゅんとなり、目の力も弱々しくなり、獣耳が垂れる。
「『出来損ない』だなんて言わないでください」
か細い声でそう乞う。
「アッシュさまは立派なお方です。奴隷の身分だったわたしを思いやってくださる、すばらしいお方です」
プリシラ……。
彼女の目じりに溜まる大粒の涙。
「だから『出来損ない』だなんて言わないでください」
もう一度そう言った。
「アッシュさまはわたくしの大切なお方ですから」
俺は立ち上がり、プリシラのとなりに立つ。
「悪かった。もう言わない」
そして彼女の肩に手をやって抱き寄せ、頭をなでた。
一瞬、びくりとすくみがった彼女であったが、すぐに肩の力を抜いて俺に身をまかせてくれた。
俺にとってもプリシラはかけがえのない少女だ。
ランフォード家の屋敷にいたころ、唯一俺を慕ってくれていたのが彼女だ。
おっと、マリアもそうか。
少々強引なところもあるが、マリアも俺のかけがえのない友人だ。
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