22-1
「アタシは力を貸さないからな」
「そんな他人事のでよいのか? 無限の命を持つワシらは、このままではいずれ災厄の日を目の当たりにすることになるのじゃぞ」
「う……。それは……」
そのとき、強い風が外から部屋の中へと吹き抜けた。
窓が一斉にガタガタと鳴る。
それでスセリとセヴリーヌが後ろを振り向いたとき、俺の存在に気づいてしまったのだった。
「アッシュ。どうしたのじゃ。こんな夜更けに」
「お前、アタシたちの話、聞いてたのか?」
「いや、ちょうど今、来たところだ」
俺はとっさにウソをついてしまった。
スセリもセヴリーヌも別段疑わず「そうか」とだけ言った。
俺は二人に先ほど見た夢を話した。
笑われるかと思いきや、二人とも俺の話に真剣に耳を傾けていた。
「精霊竜と――」
「ツノの生えた少女」
「ただの夢じゃないと思うんだ。心当たりはないか?」
スセリとセヴリーヌは黙り込む。
訪れる静寂。
森の中から虫の音やフクロウの鳴き声が聞こえてくる。
俺も黙ったまま彼女たちの返事を待っていた。
スセリとセヴリーヌは無言のまま目配せする。
その直後、スセリがこう答えた。
「それはただの夢じゃな」
そんなわけがない。
二人とも、明らかに俺の夢について心当たりがある。
「どうして隠すんだよ。俺に知られたらマズいのか?」
「お前だってアタシたちの話を盗み聞きしてたの隠してたろ」
セヴリーヌにそう言われてしまい、俺は言葉に詰まった。
バレてたのか……。
スセリが俺の肩に手を置く。
「アッシュよ。その夢はおぬしにとって重要な意味を持っている。精霊竜たちとはまた夢の中で会うこともあろう。そのときを待つのじゃ。ワシから言えるのはそれだけじゃ」
結局、自分の口から話してはくれないというわけか。
「前にも言ったが、おぬしは万能の魔書を継承した。もはや普通の人間と同じ道は歩めなくなった」
「おどかすなよ」
「事実を口にしたまでじゃ。実際、おぬしは『オーレオール』を狙う者と戦ったじゃろう」
魔書を狙う者、ナイトホーク。
あの男とはまだ決着がついていない。いずれどこかで再びまみえるだろう。俺が望んでいなくても、ヤツはそれを望んでいるはず。
「ま、せいぜいがんばるんだな」
セヴリーヌは手をひらひらさせながらバルコニーから去ってしまった。
俺とスセリ、二人きりになる。
スセリはニヤリとしながら俺を指さす。
「安心せい。おぬしにはワシがおる。『稀代の魔術』とうたわれたワシがな。それにおぬしに好意を寄せる者たちもきっとおぬしの助けとなろう」
プリシラ。
マリア。
ディア。
彼女たちの姿が心に浮かぶ。
「いずれ訪れるおおいなるうねりにワシたちで立ち向かのうじゃ」
そこで俺たちの会話は終わった。
俺は再び自室に戻り、ベッドに横になった。
すぐに眠気が訪れて眠りに落ちた。
今度は夢を見ることなく、朝が訪れた。