21-6
「継承者の宿命……」
「アッシュよ。魔書の力を求めて、あなたの前にはさまざまな者たちが現れるでしょう。それはあなたの心強い味方でもあり、魔書を己が物とせんと企む敵でもあり……」
敵……。
ガルディア邸で戦ったナイトホークを思い出す。
「あなたはその味方の想いに応えるための、そして敵を退けるための力と勇気を持たねばなりません」
俺にはまだその力と勇気は無い。
魔書『オーレオール』を持つにふさわしいかと問われれば、首を横に振らざるを得ない。
「私にあなたの力を試させてください」
精霊竜がそう言うと、背後から誰かの気配がした。
後ろを振り向く。
白いもやに映る人影が近づいてくる。
「お前が魔書の継承者か」
白いもやの向こうから現れたのは一人の少女だった。
年齢は俺と同じくらい。
武人を思わせる意志の強そうな声と顔つき。
そして額には一本のツノが生えており、人間とは異なる種族であるのがわかった。
その華奢な身体には不釣り合いな、厚い刀身の大剣を彼女は持っていた。
「剣を持て」
ツノの少女がそう言う。
「……剣よ」
俺は魔法を唱え、剣を召喚した。
片手に剣を、もう片方の手に『オーレオール』を持つ。
「お前が強き者か弱き者か、確かめさせてもらう――我が剣で」
ツノの少女は大剣を両手で握った。
そしてその大剣を振りかぶる。
「いざ、勝負!」
ツノの少女が大剣を振り下ろした。
俺はとっさに後方に飛びのく。
垂直に打ち下ろされた大剣は俺の足元に叩きつけられた。
その勢いで激しき風が巻き起こり、白いもやを吹き飛ばす。
「かわしたか。なら、これはどうだ!」
「障壁よ!」
今度は真横に大剣を振るう。
回避が困難だと判断した俺は魔法の障壁でそれを受け止めた。
一撃で打ち砕かれる障壁。
反動でのけぞるツノの少女。
「まだまだ!」
水平に構えた大剣で突きの一撃を繰り出してくる。
それも魔法の障壁で防御した。
ツノの少女が再び体勢を崩す。
俺はすかさず大剣の間合いに内側に潜り込み、ツノの少女に接近した。
大剣を握るか細い手の手首をつかむ。
「俺の勝ちだ」
「くっ」
ツノの少女は悔しさを表情に出したが、すぐに敗北を受け入れて身体の力を抜いた。
「やさしいのですね。アッシュ」
精霊竜がそう言う。
「『オーレオール』の力を使えば彼女を殺せました。しかしあなたはそうしなかった」
「甘いだけではありませんか」
ツノの少女が反論した。
「アッシュといったか。私はお前を認めない」
俺の手を振り払うツノの少女。
負けてしまったことを――しかも、命を奪わないよう手加減されたことを恥じているのかもしれない。なんとなくだが、彼女はそんな気位の高い性格に感じられた。