21-5
はっと意識を取り戻す。
俺は一面真っ白な空間の中に立っていた。
その異質な光景で「ああ、ここは夢の中なんだな」とすぐにわかった。
真っ白な世界。
世界には白いもやが立ち込めている。
自分以外の物体がなにも存在しないため、遠近感がつかめず、この世界が広いのか狭いのか、あるいは無限に広がっているのか判別がつかない。自分の夢の世界だから、そのあたりはあいまいなのだろうとなんとなく思っていた。
夢の世界を歩く。
歩けど歩けど延々と同じ光景が続く。
無限に続く白い世界。
どうしてこんな夢を見ているのだろうかと考えながら、歩く。
夢といえば過去の出来事の再現だったり、直前まで読んでいた小説の物語だったり、俺の知る光景や人物が登場したりするものが多かった。こんななにもない夢を見るのは初めだった。
目を覚ましてみるか。
俺は頬をつねる。
……痛い。
つねった頬がじんじんと痛むだけで、俺は目を覚ませなかった。
まるで現実の世界にいるかのように、痛みははっきりと感じられた。
目を覚ませと強く念じるも、一向に目を覚ませない。
この世界から出られない。
俺は焦りだす。
まさここは夢じゃない……?
なんらかの力で俺はこの白い世界に連れてこられたのか。
「スセリ! スセリが俺をここに連れてきたのか!」
白い世界で叫ぶ。
しかし、返事はない。
俺の焦りは募るばかりだった。
「『オーレオール』の継承者よ」
そのとき、どこからともなく声が聞こえてきた。
慈愛の女神を連想させる女性の声だった。
スセリの声とは明らかに違った。
白いもやに黒い影が映る。
俺はその影に向かって走りだす。
その影に近づくにつれ、もやに映る影がどんどん大きくなっていく。
限界まで近づくと、その影の正体が明らかになった。
竜だった。
白い体毛を生やした、獣のような竜が四つ足で立っていた。
物語に出てくる爬虫類めいた竜とは違う、異質な竜だった。
犬に似た、やさしさや穏やかさを感じる顔。
額には二本のツノが生えている。
「『オーレオール』の継承者よ」
獣の竜は再びそう言った。
俺の前に魔書『オーレオール』が出現する。
宙に浮いているそれを手に取る。
「『稀代の魔術師』の魂と分離したそれは、まごうことなきあなたのものとなりました」
「お前は何者なんだ」
「私は精霊竜」
精霊竜……。
聞いたことのない言葉だ。
「その万能の魔書は、持つ者に無限の力を与えます。世界を支配することも、保つことも、……そして、破壊し尽くすことも容易にできます」
「俺はそんなの望んでいない」
「あなたの意思とは無関係に運命は巡ります。それがその魔書の継承者の宿命」