21-4
それから俺たちは各々の部屋へと入った。
ガルディア家とはさすがに比べ物にならないが、ランフォード家も広い。客人が少し増えたところで部屋はいくらでもあった。
「久しぶりのベッドメイキング、はりきってしましたっ」
俺の部屋のベッドはシワの一つも無くきれいに整えられていた。
プリシラが「ドヤッ」とした顔をしている。
俺は彼女に「ありがとう」と言った。
「それとプリシラ。これからの旅にマリアも同行することになった」
「マリアさまがですか!?」
驚くプリシラ。
それからぎこちない笑みをつくる。
「よ、よかったですね。アッシュさま」
「プリシラもそれでいいか?」
「も、もちろんです……」
言葉と表情が一致していなかった。
どう見ても焦っている。
「マ、マリアさまにはぜったい負けられません……!」
小声でそんなことをひとりごちていた。
「ということは、マリアさまも冒険者になるのでしょうか」
「いや、今回はガルディア家との親交を深めにアークトゥルスへ行くだけだ」
ただ、マリアのことだから間違いなくずっと俺たちと旅を続ける気だろう。
どうやって彼女を説得するか、今のうちに考えておかないと。
「アッシュさま」
プリシラがおずおずと俺に尋ねる。
「マリアさまとのご結婚、考えていらっしゃるのですか?」
「まさか」
俺が否定するとプリシラは「そ、そうですか」と言った。
ほっとしているように見えたのはたぶん、気のせいではない。
「それではアッシュさま。おやすみなさい」
ぺこり。
おじぎをしてプリシラは俺の部屋から去った。
夜の静寂が訪れる。
「なあ、スセリ」
と俺はついうっかり魔書『オーレオール』に話しかけてしまった。
そうだ。もうスセリは自分の身体を取り戻したんだった。
そういうわけで、『オーレオール』はなにも応えてこなかった。
これはこれで、ちょっとさみしいな。
ベッドに横たわり、『オーレオール』を、しおりをさしたページから開く。
最近は夜寝る前、この本を読んで魔法の勉強をするようにしている。
とはいえ、俺は魔法に関してはまったくの素人だから、記されている原理や理論についてはさっぱり理解できない。わかるのは魔法を発動させるための呪文だけで、これだけを暗記するようにしていた。
魔法の勉強もする必要があるかもな。
まっとうに魔法をおぼえるなら、他の魔術師のように誰かに師事するべきか。
今度スセリに頼んでみよう。魔法の先生役を。
まぶたが重くなってきて、『オーレオール』を閉じる。
そして訪れる眠気に身を任せる。
意識は徐々に遠退き、やがて俺は夢の世界へといざなわれた。