21-2
その夜、俺たちはそろって夕食をとった。
父上と兄たち。そして俺とスセリ、セヴリーヌ、マリア。
プリシラは他のメイドたちと別室での食事だった。
食事中、ほとんど言葉は交わさなかった。
父上と三人の兄たちは俺と目を合わせず、黙々とフォークとナイフを動かしていた。
マリアが俺と父上、兄たちの橋渡しをしようと積極的に話題を振るも、彼女の努力は無駄に終わった。無駄になるどころか、余計に気まずくなるだけだった。
サラダもスープも肉もぜんぜん味がしないのは、ヴィットリオさんの料理に舌が慣れてしまったからだけではない。
「マリアよ。その肉、食べないのならワシがもらうぞ」
「おい、アタシにもよこせっ」
スセリとセヴリーヌだけが空気を読まず、競い合うように夕食を食らっていた。
永遠に続くかのように思えた夕食がようやく終わった。
父上や兄たちが足早にその場を立ち去ると、解放された俺は大きく息を吐いた。
「アッシュ。こんなのじゃダメですわ」
「今更仲直りなんて無理なんだよ」
「でも、あなたたちは家族ですのよ」
マリアはこう思っているのだろう。魔書『オーレオール』の継承者となり、旅を経て成長した俺は『出来損ない』でなくなったから、家族の一員として迎え入れられる。父上や兄たちは俺を褒めてくれる――と。
だが、実際はそうかんたんな話ではない。
家族という関係だからこそ、余計に。
「マリア。俺はまた旅に出る。アークトゥルス地方のケルタスを拠点にして、冒険者として暮らしていくつもりだ」
「家族との仲直りは考えていませんの?」
「……少なくともここは、俺の居場所じゃない」
失意の色がマリアの顔に表れた。
――と思いきや、マリアは意気を取り戻して俺にこう言った。
「旅に出るのなら、今度こそわたくしを同行させてくださいまし」
「そ、それは無理だ……。マリアには帰る家があるだろ」
「わたくしにとって、アッシュより大事なものはありませんの!」
なにより、とマリアは続ける。
「プリシラには負けたくありませんの!」
そして俺の手首をつかむ。
「アッシュが『わかった』と言うまで離しませんわ」
マリアは強情だから、本当に俺が首を縦に振るまで離すつもりはないだろう。
「大変じゃのう。のじゃじゃじゃじゃ」
スセリは傍観を決め込んでいる……というか、愉快そうに見物している。やはり助けてはくれないらしい。
「旅をするのはマリアが思っているより大変なんだぞ。魔物や賊と戦わなくちゃいけないし、夜は野営をしなくちゃいけないし、風呂だっていつ入れるかわからないし」
「覚悟の上ですわ」
それからマリアは微笑んで言う。
「アッシュと二人なら、どんな困難でも乗り越えられますわ」