21-1
「あとはワシがこの身体に入れば終わりじゃ。アッシュよ。『オーレオール』の力で魔法を使い、ワシをこの身体に入れるのじゃ」
俺の頭の中に呪文が浮かんでくる。
俺はオーレオールを片手に、スセリに魔法を唱えた。
「魂よ、肉体に宿れ」
刹那、スセリの姿が強い光を発して視界を奪う。
閃光が収まると、彼女は光の球となって宙に浮いていた。
光の球はゆっくりと上昇し、天井付近で停止する。
そして次の瞬間、スセリの遺体に向かって急降下した。
光の球が遺体の胸に直撃する。
それと同時に再び閃光が発生し、俺たちは目をつむった。
眼球が痛くなるほどの強い光。
光ったのは一瞬だけで、すぐに部屋は薄暗くなった。
おそるおそる目を開ける。
棺の中を皆で覗き込む。
銀髪の少女は依然として眠っている。
――と、そのとき、少女の目がいきなり開いた。
「うわっ!」
「ひゃあっ!」
「ひゃんっ!」
俺とプリシラとマリアが飛びのく。
眠っていた銀髪の少女は起き上がり、棺の縁に手をかけて棺から出てきた。
そして俺たちの前に立つ。
「ふーっ。ようやくよみがえったのじゃ」
「スセリ……なのか?」
「ワシじゃなかったら誰なのじゃ」
銀髪の少女――スセリがそう答えた。
よみがえった身体を確かめるようにスセリは腕を回したり足を上げたりしている。
「うむ。四肢はしっかりと動くようじゃ。感謝するぞ、セヴリーヌよ」
「いいからとっととセオソフィーとフィロソフィーをよこせ」
「アッシュ。こやつに渡してやれ」
「あ、ああ……」
言われるまま俺はポーチからガルディア家の二つの宝珠を出してセヴリーヌに渡した。
セヴリーヌはご機嫌な表情になる。
「二つの宝珠に眠っている力、今度こそ解明してやるぞっ」
俺とプリシラとマリアはスセリをじっと見つめている。
「老婆の姿からまたたく間に子供の姿に戻るなんて……。すごい魔法ですわ」
「そうだぞ。アタシはすごいんだ」
これほどの魔法、いくらでも悪用できそうだが、身体も精神も幼いままであるセヴリーヌにそんな考えはないらしい。それはきっと、さいわいなことなのだろう。本人にとっても。
「えっと、これでスセリさまは『オーレオール』に縛られず、自由に動けるんですね」
「さよう。肉体を得たワシは自由の身になったのじゃ」
肉体を得たといっても、スセリの姿は魂だけのころとまったく変わっていない。
本人の身体だから当たり前なのだが。
「アッシュ。これからおぬしはワシの助けなしで『オーレオール』を使うことになるのじゃ」
今まではスセリが俺の頭の中に呪文を送っていたが、これからは自力で詠唱する必要があるわけか。
「さて、ここに『稀代の魔術師』二人と、『オーレオール』の継承者がそろった。ワシらは一国の軍に匹敵する戦力となったのじゃ。手始めに近隣の貴族の領地を攻め落とすかの」
「ええっ!?」
「冗談じゃよ。のじゃじゃじゃじゃっ」
変な笑いかたをするスセリ。
冗談とは言ったが、やろうと思えばできるんだろうな……。