20-7
「あははっ。シワシワのばーさんだなっ」
セヴリーヌが笑う。
しかしスセリはまったく気にしているようすはなかった。
「人間誰しも、最後はこうなる定めなのじゃよ。セヴリーヌ」
「普通の人間ならな。アタシは天才で最強の魔術師だから、ずーっと歳をとらないし、死ぬことだってないんだ」
「かたちあるものは、うつろい、失われるからこそ価値があるのじゃ」
「なんだそりゃ」
魂の移し替え。
肉体の時間の凍結。
スセリとセヴリーヌはお互い別々の方法によって不老を獲得した。
永遠の命が最高の幸福であるかはまた別の話だが。
少なくとも、セヴリーヌはスセリの言葉の重みを理解できていなかった。
「スセリさま。ご遺体を残したのはスセリさまだけなのですか?」
「ん? それはどういう意味じゃ。プリシラよ」
「スセリさまの旦那さま――リオンさまのご遺体は残していないのですか?」
その言葉にセヴリーヌが反応する。
ロコツに不機嫌になった。
スセリの夫であるリオンはセヴリーヌが恋していた相手――つまり、彼女たちは三角関係だったのだ。
セヴリーヌはスセリがリオンを奪ったと思い込んでおり、今も根に持っているのだ。
「リオンは永遠の命は望んでおらんかったのじゃ」
スセリがさびしげな笑みを浮かべた。
その表情には彼女の孤独がうっすらと映っていた。
リオンという人に会ったことはないが、愛する人を残し、定められた運命をあえて受け入れたということは、きっと立派な人だったのだろうと思った。
「さて、それよりも、セヴリーヌよ。おぬしの時間魔法でワシの遺体を若返らせるのじゃ」
「わかってる。……お前に力を貸すのはシャクだけど」
「これは取引なのじゃ」
「結局お前は死ぬのが怖いんだな」
セヴリーヌは棺の中の遺体に手を触れる。
そして目を閉じて集中しだす。
すると彼女の輪郭が光を帯びだした。
魔力が漏れ出ている。
彼女の髪がふわりと舞い上がる。
彼女の手を伝って魔力がスセリの遺体に流れ込んでいく。
「時間よ、巻き戻れ」
静かにセヴリーヌが唱える。
すると干からびたスセリの遺体は血色を取り戻し、健康的な姿になった。
白髪が徐々に銀色の髪へと変わっていく。
身体中にきざまれていたシワがなくなっていき、みるみるうちにスセリの遺体は30代ほどの年齢の姿になった。
そこからさらに若返っていく。
スセリの身体の時間が戻っていくのを、俺とプリシラとマリアは息を呑んで見守っていた。
遺体が20代の姿になると、若さを兼ね備えた魅力的な女性へと変わった。
更に時間は逆行していき、彼女の姿に幼さが現れてくる。
背が縮み、顔には垢抜けなさが現れてくる。
そしていよいよ、その姿は俺たちの前にいるスセリの姿と一致するようになった。
そこでセヴリーヌは魔法を止める。
浮かび上がっていた髪がすとんと垂れる。
「終わったぞ」
棺の中には銀髪の少女の遺体が眠るように納まっていた。
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