20-6
ランフォード家にとって俺は、招かれざる者なのだ。
スセリが一歩、前に出る。
「ワシがランフォード家初代当主、スセリぞ」
「お待ちしておりました。ご初代さま」
父上は礼儀正しくスセリにそう言った。
「ランフォード家へと戻ってこられる理由はアッシュの手紙で知りました。どうぞご自由に屋敷をお使いください」
「うむ。それではさっそく封印の間へとワシらは行くぞ」
「ちょっとお待ちになって!」
マリアが俺たちを止める。
「おじさま。こうしてアッシュが帰ってきました。もっと言うことがあるのでは?」
「……いや、なにもない」
父上のその言葉に愕然とするマリア。
しかし、それでも食い下がる。
「お二人の仲を取り持つために、おじさまはわたくしにアッシュが帰ってくることを知らせてくださったのではありませんの?」
「お前はアッシュと親しかった。だから知らせたまでだ」
「お二人は親子ですのよ。どうか仲良くしてくださいまし」
「……マリア。私とアッシュはもはや親子ではない」
マリアは立ち尽くす。
父上はそれだけ言って、俺たちの前から去ってしまった。
はっきりと言われてしまった。
父上の言葉になにも感じなかったといえばウソになる。
ただ、それは事実だと納得もしていた。
俺と父上は家族という関係を断ち切る決定的なことをしてしまった。
……もう、親子ではない。
それから俺たちは封印されし地下室を訪れた。
そこに行く間、メイドや使用人たちには会ったが、兄たちと顔を合わせることはなかった。
俺を避けているのだ。
俺にとってもそれは好都合だった。
今更どんな顔をして兄たちに会えばよいのか。
結局、ここに来てもわからなかったから。
「アッシュ。これでよろしいのですの?」
ランフォード家にアッシュという人間は最初からいなかった。
そうすることがお互いにとって最も良いのだ。
普通の家族みたいになる。
そんなのは甘い空想だったのだ。
「これでいいんだ」
それは自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。
「すべての家族がきずなで結ばれているとは限らないのじゃ。マリアよ」
力及ばず落ち込むマリアをスセリがそうなぐさめた。
「では、開けるのじゃ」
スセリが封印の扉に手を触れる。
ガチャリと音がする。
スセリが手を押すと、扉は音もなく開いた。
ほの暗い地下通路を歩いて先へと進む。
そして広い空間へとたどり着く。
魔書『オーレオール』が封印されていた場所だ。
部屋の中央には『オーレオール』が置かれていた台座がある。
スセリはその前に立つと、今度は台座に手を触れた。
台座が床に沈んでいく。
台座が完全に床に埋まると、スセリは数歩、後ろに下がった。
それからゴゴゴゴと重い音が部屋に響き渡りだす。
部屋が震動している。
しばらくすると部屋の中央の床が二つに割れて開き、沈んだ台座の代わりに別の物体がせり上がってきた。
長方形の物体。
それは棺だった。
棺が完全に出てくると震動が止まり、静寂が舞い戻った。
俺たちは棺を囲むようにして集まる。
「これが……スセリさま」
棺の中には干からびた老婆の亡骸が眠っていた。
スセリの肉体だった。