20-5
ウルカロスが言う。
「マリアさま。それにプリシラさま。アッシュさまが困っていますよ。大切なご友人であるはずのお二人が言い争っていることに」
そう言われてプリシラもマリアも我に返り、にらみ合うのを止めた。
まさかゴーレムにけんかの仲裁までしてもらうことになるとは……。
「ついむきになってしまいましたわ。許してくださいまし、プリシラ」
「い、いえ。わたしこそすみませんでした。マリアさま」
「これからは仲良くいたしましょう」
マリアがにこりと微笑む。
プリシラもそれに応じてにっこり笑った。
「その星のリボン、似合ってますわよ」
「て、てへへ……。このリボン、アッシュさまからいただいたんですっ」
「……えっ?」
マリアが硬直して石像と化す。
しばらくして石化が解けると、彼女は恐ろしい形相で俺に詰め寄ってきた。
「アッシュ! 本当にこの子はただのメイドですの!?」
「わたしはアッシュさま専属のメイドですー」
それから俺はプリシラとの関係を根掘り葉掘り問い詰められた。
俺がどれだけ「ただのメイドだ」と言っても、マリアはぜんぜん信じてくれず、しかも俺が「マリアが思っているような関係じゃない」と否定すればするほど、なんだかプリシラの機嫌まで悪くなっているように見えて困り果てた。
「マリアよ。ワシらはランフォード家へと行かねばならんのじゃが」
「そ、そうでしたわね……」
そうスセリが助け舟を出してくれたことにより、俺はようやくマリアの問い詰めから解放されたのであった。
マリアが心配そうな面持ちになる。
「アッシュ。本当にランフォード家に戻りますの?」
「ああ。やらなくちゃいけないことがあるからな」
「なら、わたくしも同行いたしますわ。わたくしがアッシュとおじさまの間に入って、仲直りの手助けをいたしますわ」
俺は仲直りするつもりで帰ってきたわけではない。
……とは言えなかった。
「……頼む」
と俺は返事をしたのであった。
そして俺たちはいよいよランフォード家へと帰ってきた。
屋敷の門の前までやってきた。
使用人の男が屋敷の中から現れ、門を開ける。
「おかえりなさいませ。アッシュさま」
門をくぐり、敷地に入る。
「ウルカロス。お前はここで待ってろ」
「承知いたしました。セヴリーヌさま」
正面の扉を開け、屋敷の中へと入った。
久しぶりの我が家だ。
だが、感慨はなかった。
むしろ居心地の悪さを感じるくらいだった。
「帰ってきたか。アッシュよ」
父上が俺たちの前に現れた。
その表情は、息子との久しぶりの再会をよろこぶものではなかった。
気まずさ。
戸惑い。
そういった感情が読み取れた。
俺もたぶん、似たような表情をしているのだろう。