20-4
父上が……。
「それよりも……アッシュ!」
「なっ!?」
マリアがいきなり怒号を上げて俺たちは驚いてすくみ上った。
「どうして迎えに来てくださいませんでしたの?」
マリアは俺をきつくにらみつけている。
む、迎えって、なんのことだ……?
「わたくし、待っていましたのよ。アッシュがルミエール家の屋敷に忍び込み、わたくしを外に連れ出してくださるのを」
「まさか、俺と一緒に旅に出るつもりだったのか!?」
「当然ですわ。婚約者として」
すました顔でそう言う。
マリアはどうやら恋愛物語にありがちな展開を望んでいたらしい。
しかし、婚約者というのはマリアの一方的な思い込みなのだが……。
「プリシラと言いましたわね!」
「ひゃい!?」
びしっとプリシラを指さすマリア。
獣耳をぴんと立てて変な声を出すプリシラ。
「アッシュ。わたくしを置き去りにして、この子は旅に連れていくだなんて、どういう了見していますの?」
「それは、プリシラは俺の――」
「わたしはアッシュさまのメイドですのでっ」
プリシラがマリアの前に出て、そう堂々と言ってのけた。
その口調はまるで宣戦布告のように聞こえた。
マリアも「むっ」とした顔になる。
にらみ合う両者。
二人の視線がぶつかる場所で火花が散っている――ように見える。
「わたくしはアッシュの婚約者ですわよ」
「それはマリアさまの思い違いです」
「そんなわけありませんわ!」
「そんなわけあるのですっ」
「むむむむむ……」
「むーっ」
この戦いを止めようと二人の間に割って入る。
「お、おい。けんかはよせよ二人とも」
「アッシュは黙ってなさい!」
「アッシュさまは手出し無用です!」
俺は二人の剣幕に負けて押し出されてしまった。
スセリが「のじゃじゃじゃっ」と笑う。
「笑ってる場合か……」
「若いとはいいのう」
スセリは完全にこの状態を楽しんでいた。
逆にセヴリーヌは過去のスセリとの三角関係を思い出したのか、いらだちをあらわにしていた。
「二人ともこいつと結婚すればいいだろっ。それで解決だ」
「そういう問題ではないのです。セヴリーヌさま!」
「そうですわ! ……って、その子は誰ですの? それにこのおっきな石の人形は……」
マリアがゴーレムのウルカロスを見上げる。
「アタシはセヴリーヌ。とっても偉い魔術師だ。こっちはウルカロス」
「ウルカロスと申します。以後お見知りおきを」
ウルカロスはうやうやしくお辞儀をする。
「み、見た目の割に紳士ですわね……」
マリアはきょとんとした顔でウルカロスを見ていた。