20-2
「ほらほらー。みんなも乗ってー」
アスカノフの背中に乗ったノノさんが手招きしてくる。
しかし、プリシラもスセリも、引きつった笑みを浮かべるだけで、彼女の手招きには応じなかった。
むろん、俺も乗るつもりはない。
「ノノさん。危ないですから降りてください」
「ぜったい落っこちちゃいますよ!」
「へーきへーき」
竜を倒した英雄になりきっているのか、ノノさんは意気揚々とアスカノフに命じる。
「アスカノフ。村まで私を送ってちょうだい」
「承知した」
アスカノフが大翼をはばたかせ、飛翔する。
砂埃を巻き上げながら飛び上がったアスカノフは大空へと飛び立ち、ノノさんを乗せて地上の村まで滑空していった。
俺たちははらはらしながらアスカノフとノノさんの姿を見送ったのだった。
「なんというか、変わった娘じゃの」
スセリにそれを言われてはおしまいだった。
それから俺たちは歩いて山を下りた。
村の中央広場にはアスカノフとノノさんがいて、その周りを村人たちが囲っていた。
俺たちが帰ってきたのに気づくと、村人たちは歓声を上げて歓迎してくれた。
村長が代表して俺たちの前にやってくる。
「本当に驚きました。竜を倒すどころか、服従させてしまうだなんて。アッシュどの。あなたは村の英雄ですぞ」
「俺はできる限りのことをしただけです」
「このようなさびれた村に、このご恩に報いるだけのものはありませぬ」
「報酬は結構です。しいてお願いするなら、宿に一晩泊めていただければうれしいです」
「かしこまりました。では、今晩は村を挙げてみなさんをもてなしましょう」
そこまでしてもらわなくてもいいんだけどな。
とはいえ、せっかくの厚意を断るのも気が引けたので、俺たちはもてなしを受けることにした。
大人たちはまだ竜が恐ろしいのか、アスカノフと距離を取っている。
しかし子供たちは「すごーい」「本物の竜だーっ」とむじゃきにアスカノフの足元に群がっている。母親らしき女性たちが「いけません!」「食べられちゃうわよっ」と子供たちを引きはがすも、またすぐにアスカノフのところへと行ってしまうのであった。
「こいつ、アッシュに従ってるフリしてるだけじゃないか?」
セヴリーヌが人だかりの中から現れてそう言う。
その言葉にアスカノフが反応する。
「ワガハイは誇り高き竜。我が言葉に偽りは無い」
「トカゲの分際で偉ぶるなよ」
「恐れを知らぬ小娘だ」
セヴリーヌにそのつもりはなかったのだろうが、今のやり取りで冷静であったのが、アスカノフを信じる理由になった。
「アスカノフを信じてよいとワシは思うぞ。竜はなによりも誇りを重んじるからの」
ノノさんも「だいじょうぶよ」とアスカノフの脚をなでながら言う。
「アスカノフちゃんが悪いことをしたら、私が叱ってあげるからー」
「なぜワガハイを『ちゃん』付けするのだ……」
ノノさん……やっぱり変わった人だ……。
「では、ワガハイは山に帰らせてもらう。魔物や賊が村に近づかないよう、見張っていよう。もっとも、山頂に座する我が姿を見て村を襲うやからなどいないだろうが」
「ごはんは私の錬金術で作ってあげるから、ときどきは村に下りてきてね」
「かたじけない」
アスカノフは飛び立ち、山の頂上へと去っていった。
「やるのう、アッシュ」