19-7
「あんなおっきな怪物に勝てるのでしょうか」
プリシラが不安がる。
「……いや、案外、勝ち目はあるかもしれない」
そう俺は言った。
アスカノフは先ほど現れた時点で口から炎の息吹を吐けば、俺たちを一網打尽にできた。地上に降りて俺たちを食らうことだってできたはず。しかし、ヤツはそうしないばかりか、ノノさんの挑戦を受けて立った。
アスカノフは自分が強者であると、立場が上であると慢心してる。俺たちとの戦いを単なる戯れだと思っている。
そこに俺は勝機を見出していた。
「ところでスセリ。スセリは前にも竜を見たことがあったのか?」
「竜のウロコや爪や牙、眼球は魔法道具のよい材料になる。竜が人里に下りてきたと聞けば、よろこんで戦いにいっていたのじゃ」
「す、すごいです。スセリさま……」
ふふん、と胸を張るスセリ。
「アッシュよ。おぬしの戦いぶり、見せてもらうのじゃ。竜の一匹や二匹倒せんでは『オーレオール』の後継者にふさわしくないからのう」
「がんばりましょうね、アッシュくんっ」
「ノ、ノノさんはくれぐれも後ろのほうにいてください……」
「援護よね? まかせてちょうだい」
ノノさんはまた杖をぶんぶん振り回していた。
――山頂。
山のてっぺんは平たい地形になっていて、周囲をぐるりと見渡せた。
燃えるような赤い皮膚をした竜アスカノフは、その中心で俺たちを待ち受けていた。
長い首を地面に垂らし、俺たちを正面から見据える。
「逃げずに来たことはほめてやろう。しかし間もなく、その勇気は無謀だと思い知ることになる」
「アスカノフ。あなたこそ痛い目にあうわよー。覚悟なさい」
アスカノフが笑い声を上げる。
大岩が坂を転げ落ちるような笑い声だ。
「それは楽しみだ。ならば見せてもらおうか。貴様らの力を」
大翼を広げるアスカノフ。
「どこからでもかかってくるがいい!」
その瞬間、俺は勝利を確信した。
アスカノフが先手を俺たちに譲った。
それが敗因になるとも知らず。
俺は魔書『オーレオール』を脇に抱え、もう片方の手をアスカノフにかざす。
精神を集中させる。
『オーレオール』から膨大な魔力が身体に流れ込んでくる。
心を研ぎ澄ませると、身体の中で自由に暴れていた魔力がかざした手に集中しだす。
やがて魔力は一つのかたまりとなった。
そして俺は唱えた。
「重力よ!」
刹那、アスカノフは見えざる物体に押しつぶされたかのように、地面に身体を打ち付けた。
「ぐおッ!」
地面にへばりつく格好となったアスカノフ。
両脚に力を入れて起き上がろうとするも、すぐに力尽きて地面に突っ伏してしまう。アスカノフはそれを三度繰り返した。
「か、身体が重い……」
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