19-4
それからしばらく南へと歩き、俺たちは錬金術師のノノさんが住む村へと到着した。
村の人たちは俺たちをおぼえていてくれて、村に来たのを歓迎してくれた。
ただ、巨大なゴーレム、ウルカロスには驚いていたが……。
「おかえりっ。アッシュくーん」
赤い髪が特徴の美女、ノノさんが感激のあまり俺に抱きついてきた。
「また会えるなんてうれしいわー」
「俺もですよ。ノノさん」
「ホント!? もしかして、私とアッシュくんて相思相愛?」
「えっ!?」
なにげない返事をノノさんはかなり曲解して受け取ったらしい。
いや、それとも俺の選んだ言葉が悪かったのか。
振り返ると、プリシラとセヴリーヌがジト目で俺を見ている。
「アッシュさまぁー?」
「お前、誰でも構わずそうしてるのか?」
「子孫を増やすぶんにはワシは構わんのじゃ」
「誤解だ!」
「アッシュくぅーん」
「ノノさんも離してくださいっ」
俺は強く抱きしめてくるノノさんを力ずくで引きはがした。
ノノさんと別れた俺たちは村長の家に招かれた。
村長は俺たちに菓子と紅茶を振舞ってくれた。
旅をしている間はまともなものを食べられなかったから、俺たちは村長の振舞いをよろこんで受け入れた。
久々に文明的なものを食べた。旅をしている間は干し肉ばかりだったからな。
しかし、どうしてここまで手厚くもてなしてくれるのだろう。
少し疑問に思った。
村からすれば俺たちはただの旅人にすぎないはず。
以前、村の女の子の中毒を治療したからだろうか。
「『稀代の魔術師』さまご一行が再びこの村を訪れてくれてとても光栄です」
村長がそう言う。
スセリの異名を知っているとは……。
「実を言いますと、みなさまに頼みたいことがあるのです」
そういうことか。
「この村の近くに山があるのはご存知でしょうか」
「ノノさんの依頼でキノコを採集しに登ったことがあります」
「実はここ最近、その山に竜が住み着いてしまったのです」
「竜ですか!」
――竜。
極めて凶暴で強大な力を持つ、有翼の怪物。
個体数は少ないが、人間をも凌駕する知能を持ち、いずれも尊大な性格をしているといわれている。
その口から吐かれる炎の息吹は大地を焼き尽くすという。
「アスカノフと名乗るその竜は、我々に供物を要求してくるのです」
「供物とは?」
「村の財宝。あるいは食べ物です。供物を捧げねば村を焼き払うと脅され、ほとほと困っているのです」
竜は金銀財宝を好み、巣にため込むという。
しかし、この村にそんな財宝はないだろうし、食べ物も自分たちの分だけでせいいっぱいだろう。
「ノノ先生がアスカノフを退治しに行くとはりきっているのですが、彼女一人では心配で……」
「ノ、ノノさんが!?」
「なにやら今はアスカノフを倒すための武器を錬金術でつくっているみたいです」
なんて無謀な……。
「どうかノノ先生と共にアスカノフを退治していただけないでしょうか」