19-3
「俺はプリシラが家族だったらよかったのに、ってよく思うよ」
「えっ!? そ、それって、つ、つつつつ妻という意味――」
「プリシラみたいな妹がいれば、ランフォード家での生活も楽しかったろうな」
「い、妹ですか……。で、ですよね」
焚火の火が小さくなってきた。
俺はそばに置いてあった枝を焚火に放り込む。
火が再び強くなる。
あくびをして、目をこするプリシラ。
「プリシラ。そろそろ寝たらどうだ。火の番になったら起こすから」
「はい。では、先におやすみさせていただきます」
プリシラはその場に横たわって目をつむった。
しばらくすると、彼女の静かな寝息が聞こえてきた。
――ワシの肉体をよみがえらせるためにランフォード家に行くだけじゃ。別に家族と仲直りしようとしなくてもよいのじゃぞ。
魔書『オーレオール』の中からスセリがそう言ってきた。
聞いてたんだな。俺とプリシラの会話を。
「俺は父上や兄上たちを憎んでいるわけじゃない。普通の家族みたいな関係が築けるのなら、そうしたいさ」
――召喚獣をけしかけられて殺されかけたというのに、甘いヤツじゃの。
そのとおり。俺は甘い。
普通の家族の団らんを今さら夢見ている。
――家族ならおぬしが自分でつくればよいじゃろう。
「自分でつくる……?」
――結婚し、子をもうけ、自分の家族をつくるのじゃ。少し早いが、そうしてもおかしくない年齢じゃろう。アッシュよ。
「誰と結婚するだよ」
――なにを言っておるのじゃ。周りにいくらでもいるじゃろう。おぬしを好いている者は。マリアやプリシラ、それにディア。それとも……。
スセリが実体化し、俺の肩にしなだれかかる。
流し目で、俺の耳元でささやく。
「ワシがよいのか?」
「お前はご先祖さまだろ……」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
からかうだけからかってスセリは実体化を解いて消えていった。
結婚、か……。
俺も17歳だ。スセリの言うとおり少し早いが、貴族の子なら結婚していてもおかしくない年齢だ。
自分の居場所をさがす旅。
その終点が結婚なのかもしれないな。
……誰と結婚するかはともかくとして。
それから俺は『オーレオール』を読みながら火の番をした。
『オーレオール』にはさまざまな魔法の奥義が記されていた。
転移の魔法。治癒の魔法。大地を動かす魔法……。
この魔書の魔力を借りれば、それも容易く実現できる。
ただ、俺はできればこの魔書の力は借りたくなかった。
力ある者には敵も集まる。
ナイトホークのような、『オーレオール』を狙う者たちが。
スセリはどうしてこの魔書をつくったのだろうか。
彼女は以前、自分には野望があると言っていた。
『稀代の魔術師』の野望……。
スセリの肉体を復活させ、『オーレオール』から分離させて、本当によいのだろうか。
俺は一抹の不安をおぼえた。