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「むむっ」
スセリの身体が透けてきた。
実体化する時間に限界がきたのだろう。
「この話はまた後じゃな。とにかく、おぬしはなんとしてもルミエール家に取り入るのじゃぞ」
スセリの身体が光を放ち、光の球体となる。
そしてふわふわと空中を浮遊し、魔書『オーレオール』の中に戻っていった。
翌朝、俺とプリシラは再び冒険者ギルドを訪れた。
「いよいよ依頼を受けるんですね、アッシュさま」
「ああ。依頼をこなして報酬をもらって、とりあえず宿代だけでも稼がないとな」
ギルドの掲示板にはさまざまな依頼が掲載されている。
魔物の討伐、旅の護衛、危険な地域の探索、薬草や鉱石の収集……などなど。
かんたんな依頼は当然報酬は安いし、高額な報酬は危険を伴う依頼となっている。
自分の身の丈に合った依頼を選ばないとな。
俺たちは冒険者になったばかりだから、まずは薬草の採集を受けてみるか。
「それではないぞ、アッシュ。これを受けるのじゃ」
ところが、実体化したスセリが掲示板の上のほうを指さした。
「りゅっ、竜の討伐ですか!?」
プリシラがすっとんきょうな声を上げた。
「竜ってあの、おっきくて翼の生えた凶暴な魔物ですよね」
「『オーレオール』を持つアッシュなら容易い仕事なのじゃ」
確かに俺は魔書『オーレオール』を手に入れたことにより、強力な魔法が使えるようになった。
事実、その力を用いて父上たちが呼び出した召喚獣を退けた。
竜討伐の依頼をよく読んでみる。
討伐対象――サンダードラゴン。雷の息吹を吐く中型の竜。山岳地帯に生息しており、近隣の領地とつながる重要な山道に立ちはだかり、人々の往来を妨げている。流通にも重大な悪影響を及ぼしているため、速やかな討伐を望む。
依頼主はこの地方の領主だ。
領主からの依頼ということもあり、かなりの高額の報酬が提示されている。
逆に言えば、それほど困難な仕事というわけだ。
「やめときな」
俺たちのそばにいた冒険者の男が口をはさんでくる。
「その依頼、腕の立つ冒険者が何人も受けてんだが、全員サンダードラゴンの餌食になっちまった。
軍の一つや二つが動かねえといけないような仕事だぜ」
やはりそうか。
いくら『オーレオール』の力を得たとしても戦いの素人の俺たちがこれを受けるのは危険すぎる。
「いいから受けるのじゃ」
「スセリさま!?」
だがしかし、スセリはその依頼書を掲示板から引きはがして受付まで持っていってしまった。
「この依頼を受けるのじゃ」
「こっ、これを受けられるのですか!?」
受付嬢はサンダードラゴン討伐の依頼書を見て目をしばたたかせた。
屈強な男ならともかく、年端もいかない少女が持ってきたとなれば当然驚かれるだろう。
「こっちの二人が受けるのじゃ」
俺とプリシラも受付の前に立つ。
受付嬢は困ったようすで頬に手を当てている。
「あなたがたは昨日、冒険者登録を済ませたばかりの方ですよね。申し訳ありませんが、こういった困難な依頼は熟練の冒険者にしか斡旋できない決まりとなっているのです」