19-2
ウルカロスのおかげで俺たち四人は魔物や野盗の襲撃に会うことなく、無事に森を抜ることができた。旅はとても順調だった。
ただやはり、食事が物足りなかった。
「この干し肉もスープも、ぜんぜん味がしないぞ」
「そういうものなのじゃ」
旅に慣れていないセヴリーヌは携帯食料に文句をつけてばかりだった。
それもしかたない。
俺だって『夏のクジラ亭』でのヴィットリオさんのごちそうが恋しい。
旅立つ前、ヴィットリオさんからもらったサンドイッチも、その日のうちに食べつくしてしまった――セヴリーヌが。
寝るときも固い地面に横たわるので、起きると身体が痛くてしかたなかった。
「久しぶりの旅はやはり疲れますね。アッシュさま」
「ふかふかのベッドで眠りたいな」
「ですねっ」
夜。
焚火にあたりながら俺とプリシラはそんな他愛のないおしゃべりをしていた。
スセリは魔書『オーレオール』の中。
セヴリーヌはウルカロスの手の中で眠っている。
「ぐごー……ぐごー……」
すごい寝相で、すごいいびきをかいて……。
服がはだけておなかが丸出しだ。
本当にこの子は自由奔放だな……。
俺はセヴリーヌの服を直してやった。
「すまないな、プリシラ。ランフォード家に帰るのは気まずいだろ」
「それはアッシュさまも同じじゃないですか」
「まあ、な」
どんな顔をして家族に会えばいいのだろうか。
旅も半ばだが、まだ気持ちの整理がついていなかった。
「でも、でもでも、わたしたち、いつかはランフォード家に帰らなくてはいけなかったんだと思います」
「……かもしれない」
父上と兄たちに暗殺されかけた俺は、父の「戻ってこい」という言葉に対して首を横に振り、プリシラとスセリと共に旅立った。
あのとき俺がもっと冷静だったら、違った返事をしていたかもしれない。
……していただろうか。
「できることならわたしは、アッシュさまとご家族の縁が戻ればいいな、って思います。仲が良くなくても、やはり家族とはゆいいつうに――はうっ」
プリシラが噛む。
そして言い直す。
「ゆ、唯一無二ですから」
プリシラは奴隷の身。家族はいない。
だから家族というものが特別なものだと感じているのだ。
俺は『出来損ない』ではなくなった。
それは胸を張って言える。
しかし、それで父上や兄たちが考えかたをあらためて俺との縁を戻してくれたとしても、それは本当に家族といえるのだろうか。
召喚術師の名門であるランフォード家の当主として、家の名を汚す存在であった俺を父上が疎むのは仕方なかった。俺も貴族の人間だ。家の名を守る責任の重さはよくわかっている。
「旦那さまも本当はアッシュさまと仲良くしたいと思っていたと思います」
「どうかな」
「そうじゃないと、あまりにも悲しすぎます」
それからプリシラは前のめりになって俺に詰め寄ってくる。
「この旅でいろいろな経験をして立派になったアッシュさまのお姿を見られたら、旦那さまもお兄さんたちも、アッシュさまのことを見直すに違いありませんっ」