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19-1

 その日、俺は父上あてに手紙を書いた。

 魔書『オーレオール』に魂を移した初代当主、スセリと旅をしていること。

 彼女の魂を封印の間にある身体に移すため、ランフォード家へと帰ること。


 それだけでは味気なかったため、旅で起きた出来事を書いたりした。

 一応、俺たちは親子だからな。

 『出来損ない』として期待されていなかったとはいえ、あの人は俺の父親。あんな別れかたをしたというのに、俺はまだあの人とは親子の関係だと思っていたのだ。暗殺されかけたというのに……。

 血のつながりとはふしぎなものだ。


 その後、一日使って旅に必要な道具を街で揃え、それからクラリッサさんとヴィットリオさんに長旅に出ることを伝えた。


「そう。実家に帰るのね」

「すぐに戻ってくると思います。あっちに着いたら手紙、書きますので」

「家族と仲直りはできないの?」


 そう問われ、俺は口ごもった。


「ごめんなさい。あなたたち家族の問題に口を出しちゃダメよね。貴族っていろいろしがらみがありそうだものね」

「いえ、心配してくれてありがとうございます」

「勝手なことを言うと、アッシュくんのお父さん、きっとアッシュくんを心配しているわよ」

「……それはどうでしょうか」

「期待外れだったからといって、子供への愛情がなくなるなんてありえないもの。まあ、私とヴィットリオに子供はいないから、あんまり言えた口じゃないんだけどね」


 父上は俺をどう思っているのだろうか。

 今になってはじめて、それが気になったのであった。



 そして旅立ちの日が来た。


「いってきます。クラリッサさん。ヴィットリオさん」

「いってらっしゃい」

「いってこい」


 笑顔で手を振るクラリッサさん。

 ヴィットリオさんは相変わらずのいかつい表情で俺たちを見送っていた。


 俺とプリシラ、スセリ、それにセヴリーヌの四人での旅だ。

 ケルタスまで来た道を引き返す旅路になる。

 この街の喧騒もしばらくは聞けなくなるな。


 俺たちは西区の路地裏を出ると、南区へ行き、門の前までやってきた。

 そして一歩踏み出し、ケルタスの外へと出る。


 目の前には緑がまぶしい草原。

 右手には太陽の光を乱反射させる海。

 しばらくはさわやかな景色が続いていくが、街から離れるとやがて不毛の荒野になる。

 旅に慣れていないセヴリーヌが()を上げないか心配だ。


「セヴリーヌ。長いこと歩き続けるけど、がんばってくれよ」

「アタシはがんばらないぞ」

「へ?」


 セヴリーヌは手にしていた短いステッキをかかげる。

 そして魔法を唱えた。


「来たれ!」


 すると彼女の目の前に魔法円が描かれ、そこから巨大なゴーレムが召喚された。

 ウルカロス!?


「ご命令を。セヴリーヌさま」


 恭しく主人に頭を下げるウルカロス。


「アタシを乗せろ。ウルカロス」


 セヴリーヌは屈んだウルカロスの背中を登り、肩に腰を下ろした。

 ……たしかに、これならがんばらなくて済むな。


「どうだ、すごいだろ」


 ウルカロスの肩の上から得意げに俺たちを見下ろしているセヴリーヌ。


「みなさまの旅のお供をさせていただきます」

「あ、ああ……。よろしくな」


 まあ、こんな巨大なゴーレムがいれば魔物も野盗も襲ってこないだろう……。

 頼もしい仲間を得た俺たち四人は大都市ケルタスを発ったのであった。

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