18-5
アクセサリー屋から出た俺とプリシラは、次に喫茶店に入った。
先ほどと同じく、こういう店に入るのは初めてだったから、俺もプリシラも緊張していた。
店に入ると、プリシラと似たようなメイド服を着た女性の店員に席を案内された。
賑やかな街並みが眺められる、窓際の席だった。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
メニューを俺に渡して店員は去っていった。
メニューにはコーヒーやジュースといった飲み物と、サンドイッチやケーキなどの軽食が載っていた。
俺はメニューをプリシラに渡す。
「俺はコーヒーとチョコレートケーキを頼むけど、プリシラはどうする?」
「しょっ、少々お待ちを……」
プリシラは真剣な面持ちでメニューをにらんでいる。
眉間にシワが寄っている。
だいぶ悩んでいるな……。
俺は蓄音機から流れる落ち着いた音楽を聴きながら、プリシラの注文が決まるのをのんびりと待っていた。
「決まりましたっ。オレンジジュースとチーズケーキが食べたいですっ」
俺は店員を呼んで二人分の飲み物と軽食を注文した。
しばらく待っていると、再び店員がやってきて、銀のトレイに載せていた飲み物とケーキをテーブルに並べた。
プリシラはフォークでチーズケーキを一口大に切り、それから突き刺し、口へと運ぶ。
彼女はうっとりと目を細めた。
「とってもおいしいですっ」
俺の頼んだチョコレートケーキも甘くてほろ苦い、上品なおいしさだった。
「ランフォード家で働いていたころは、アッシュさまとこんなふうに接することができるなんて夢にも思いませんでした」
ランフォード家にいたころの俺とプリシラは、屋敷で顔を合わせることがあればよくおしゃべりをしていた。とはいえ、こうやって街に繰り出していっしょに買い物や食事をするほどの関係になるなんて、さすがに思いもしなかった。
それが今は二人で外の世界に旅に出て、仲良くデートしている。
俺にとってプリシラはもう、ただのメイドではない。
プリシラにとっての俺も、きっとそう。
「この旅がずっと続けばいいなぁ」
窓の外を眺めながらつぶやくプリシラ。
もうすぐスセリの新たな身体が手に入る。
それからどうするかはまだなにも決まっていない。
これからも冒険者として暮らしていくのか、あるいはもっと別の道を模索するのか。
わからないが、一つだけ確かなのは、俺もプリシラと同じ気持ちということだ。
旅を続けていくうちに、プリシラのメイドとして以外の生きる道が見つかるかもしれない。
それはとても良いことだ。
だが、俺は今、彼女とずっと共にいたいと強く思っていた。
それから俺たちは繁華街を散策して、いろんな店を見て回った。
そして昼食の時間になると『夏のクジラ亭』へと戻ってきた。
繁華街のレストランで食事をしてもよかったのだが、おそらくどの店もヴィットリオさんの料理には及ばないだろう、と俺たちの意見が一致して帰ってきたのだった。
さすがにセヴリーヌも目を覚ましているだろうしな。