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18-2

 プリシラを迎えに彼女の部屋へと行く。

 すると、部屋の前にはクラリッサさんがいた。


「プリシラちゃんなら先に玄関で待ってるわよ」

「あ、そうでしたか」

「私とヴィットリオの若いころを思い出すわ。私たちもよく海辺をデートしたわね」

「やっぱりデートはクラリッサさんが誘ってたんですか」

「んーん。もっぱらヴィットリオからよ」


 意外だ。

 あのヴィットリオさんがデートに誘う姿なんて想像できない。


「ああ見えて、ちゃんと私のことを大事に想っててくれていたのよ。アッシュくんもプリシラちゃんのこと、大切にしなさいね」

「もちろんです」

「ならよし。デート、楽しんできなさいっ」


 クラリッサさんに肩をとん、と押された。

 ロビーを通って玄関に出ると、そこにはプリシラの後ろ姿があった。

 俺の気配に気づいたプリシラがくるりと振り向く。


「アッシュさまっ」


 青空の下の、満面の笑顔の少女。

 かわいい。

 俺は素直にそう思った。


 それに、ただかわいいだけじゃない。いつものように年下を見るときの『かわいい』ではなく、今日の彼女は一人の女の子として『かわいい』と思った。

 いつものプリシラとどこか違う……。

 俺が考え込んでいると、プリシラが「実は」とはにかみつつこう言った。


「クラリッサさんにお化粧してもらったんです」

「なるほど。だからいつもと雰囲気が違ったんだな」

「ど、どうでしょうか……」


 上目づかいでおずおずと尋ねてくる。


「ああ。すごくかわいいぞ。プリシラ」

「ほ、ホントですかっ」


 プリシラは頭の獣耳をぴんと立てた。

 くすぐったそうに照れ笑いを浮かべる。

 そんな反応もまたいじらしい。


「よし、それじゃ行こうか」


 俺はプリシラに手を差し伸べる。

 しかし、彼女はきょとんと首をかしげ、差し出した俺の手を見ている。

 だから俺はこう言った。


「手、つなごう」

「手をつなぐのですかっ」

「嫌か?」


 ぶんぶんぶんっ。

 激しく首を横に振るプリシラ。

 遠心力で今にも頭が飛んでいってしまいそうな勢いだ。


「し、しかし……。メイドのわたしがアッシュさまと手をつなぐだなんて、そんな大それたことをしてもよいのでしょうか」

「いいに決まってるだろ」

「で、では、お言葉に甘えて……」


 プリシラはおそるおそる俺の手のひらに自分の手を重ねる。

 そして俺が手をぎゅっと握る。

 するとプリシラは「ひゃっ」と小さく飛び跳ねた。


 本当にプリシラはかわいいな。

 しぐさのひとつひとつがかわいらしい。


 それからプリシラも手に少し力を込め、俺の手を握り返した。

 彼女の小さな手のやわらかい感触と体温がこそばゆい。

 そうして手をつないだ俺たちはケルタスの街へと繰り出したのであった。

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