18-1
「アッシュさまと、ですか?」
「ああ。繁華街とか楽しそうだぞ。ガルディア家の問題を片づけて、ディアからずいぶんと報酬をもらったから、いろいろ買い物をしないか?」
プリシラは呆けた顔をしてその場に立ち尽くしている。
口は半分開いたまま。
嫌なのだろうか……?
俺は不安になる。
しかし、彼女の口から出た言葉は意外なものだった。
「も、もしかして、それってデートでは……」
デート……。
考えてもみなかった。
そういうつもりで誘ったわけではなかったのだが、プリシラはそう受け止めたらしい。
だから俺は、冗談交じりにこう答えた。
「かもしれないな」
途端、プリシラの獣耳がぴんと立ち、頬が赤く染まる。
そして目をめいっぱい開いた。
「ア、アッシュさまとデート!」
「不服かもしれないが、俺でよかったら――」
「めっそうもございませんっ」
プリシラはぶんぶんと頭がもげそうになるくらいの勢いで首を振る。
「メイドのわたしなんかとデートしてくださるなんて、光栄極まりないですっ」
「大げさだな」
「アッシュさまとデート……てへへ」
夢見心地といった表情になるプリシラ。
だが、それからすぐに彼女は冷静さを取り戻してこう言う。
「で、ですが、マリアさまとスセリさまとディアさまとセヴリーヌさまを差し置いて、わたしがアッシュさまとデートしてよろしいのでしょうか……」
な、なんか俺が女の子に見境ない人間に聞こえるぞ、それ……。
「マリアはただの幼馴染だし、スセリはご先祖さまだし、ディアは友人だし、セヴリーヌは……なんだろうな。とにかく、俺とデートするのに負い目を感じているのなら、それは間違いだぞ」
俺はプリシラの頭に手を乗せる。
「いっしょに楽しもうな」
「……はいっ」
そのとき、クラリッサさんが俺とプリシラの前に現れた。
「聞こえたわよ。デートするのね、あなたたち」
「はいっ。このプリシラ、メイドの威信にかけてアッシュさまとのデートをやりとげてみせますっ」
「ふふっ、がんばりなさい」
クラリッサさんがプリシラの肩を押して、俺と密着させる。
プリシラは湯気が立ちそうなほど顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
自分の部屋に戻って魔書『オーレオール』をサイドテーブルに置く。
「スセリ。今日はしばらくここで待っててくれないか」
――わかっておるのじゃ。若者同士、楽しんでくるのじゃな。
「ここじゃなくて、クラリッサさんのいるロビーに『オーレオール』を置いておくか? 話し相手がいたほうが退屈もしのげるだろ」
――別にここでかまわんのじゃ。ワシは百年以上、一人で封印の間におったのじゃぞ。今更退屈なんかどうということないのじゃ
「……それって、すごくさみしかったんじゃないか?」
百年以上も身動きも取れずにいるなんて、普通の人間なら耐えられない。
――肉体から離れて魂だけになると、そういうものも感じなくなるのじゃよ。自らに封印を施してからおぬしと出会うまで、あっという間じゃった。
「そういうものなのか」
永遠に等しい命を手に入れると、時間というものの感覚や価値観も変わるのかもしれないな。
――おぬしはワシよりもプリシラを気にしてやるのじゃ。早く迎えにいってやるのじゃ。