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狭い部屋に入り、ベッドに腰かける。
サイドテーブルに魔書『オーレオール』を置く。
すると『オーレオール』が閃光を放ち、俺の視界を奪った。
「おぬしも隅に置けんのう」
視界が明瞭になると、俺の前に銀髪の少女スセリが立っていた。
「メイドのプリシラに、ルミエール家の令嬢マリアの二人にも好かれておるとは」
聞こえていたのか。
スセリはいたずらっぽい笑みをニヤニヤ見せて俺をからかってきた。
「プリシラはまだ俺と主従関係があると思っているだけだし、マリアはただの勘違いだ」
「本気でそう思っておるのか? だとしたらおぬし、相当鈍感じゃのう」
「鈍感なつもりはない。事実を言ったまでだ」
「うむ。やはり鈍感じゃ」
けらけらとスセリは笑った。
「さて、アッシュよ。おぬしはこれからどうするつもりじゃ?」
一転して真面目な口調になり問うてくる。
「聞いてたんじゃないのか? 冒険者として仕事をして、しばらくは金を稼いでいくつもりさ」
「大事なことをもう忘れたのか?」
「大事なこと?」
はて、と俺は首をかしげる。
スセリは「やれやれ」と額に手を当てて首を横に振った。
「ワシの肉体さがしじゃ」
額に当てていた手を下ろし、胸に添える。
ランフォード家初代当主であるスセリは、何百年も前に老化で肉体を失った。
その際、魂だけをこの『オーレオール』に移したという。
そして今まで屋敷の地下室で眠っていたのだ。俺が封印を破るまで。
「この肉体は『オーレオール』の力で生前のものを再現した仮のもの。長くは実体化し続けられんし、『オーレオール』のそばから離れられん。制限が多く、極めて不便じゃ」
だからスセリは俺と契約したのだ。
魔書『オーレオール』の万能の力を貸す代わりに、新たな肉体をさがせ、と。
「早く新たな肉体を見つけ自由になりたいのじゃ」
「新たな肉体をさがせ、って言われても、具体的にどうすればいいんだ?」
見当もつかない。
「ただの人間ではダメじゃ。魔法の扱いに長けている――それも、大陸一と言えるほどの大魔術師の肉体が必要じゃ。むろん、若ければ若いほどよい」
「そんな都合よく見つかるのか?」
「『オーレオール』を創りしワシの魂を入れる器にふさわしい人間はそうそうおるまい」
「ならお手上げだぞ」
「いんや、案外そうでもないぞ。お前の知り合いにおるではないか。魔法に長けた一族が」
まさか、マリアのルミエール家か!?
「俺はあの一族に関わるのはゴメンだぞ」
というか、あちらから俺との関りを拒んでくるだろう。
ルミエール家の人間はまともな召喚術が使えない俺を『出来損ない』だと思っており、昔から関り合いになるのを避けられてきた。マリアはそんな俺と友人になってくれたが、彼女の両親はそのことを快く思っていないのだ。
ランフォード家から追放された今となっては、一歩たりとも屋敷の門をくぐらせてはくれまい。