16-7
プリシラが安心したのもつかの間、スセリがいきなり俺の肩にしなだれかかってきた。
どきりとする。
スセリは目を細め、色っぽい笑みと共に俺の耳元でささやく。
「ワシは構わんのじゃぞ」
「な、なにがだよっ」
慌てて彼女を引きはがした。
俺をからかっただけらしい。スセリは腹を抱えて脚をばたつかせながら「のじゃじゃじゃじゃっ」とおかしげに笑っていた。
「アッシュさまぁー?」
プリシラがほおをぷくーっと膨らませていた。
どうやら彼女の機嫌も損ねさせてしまったようだ。
それにしても、一瞬とはいえスセリに惑わされてしまうとは。
……いや、言い訳するわけではないが、それもしかたない。
長い銀色の髪を持つスセリは妖艶ともいえる、外見不相応の美貌を持っている。
のじゃのじゃ言わなければ美しい少女なのは間違いない。
「おっ、街が見えてきたのじゃ」
馬車の窓から身を乗り出しているスセリがそう言った。
俺も反対側の窓から頭を出して前方を見る。
なだらかな曲線を描く地平線の上に大都市ケルタスの小さな姿があった。
「あともうちょっとで帰れますね。アッシュさま」
「クラリッサさんとヴィットリオさん、心配してるかもな」
「風が気持ちいいのじゃー」
「あ、危ないぞ、スセリ……」
スセリは今にも落っこちそうなくらい窓から身を乗り出していた。
と、そのときだった。肩にプリシラが笑顔で寄りかかってきたのは。
三角形の獣耳が頬に触れてくすぐったい。
「どうした、プリシラ。眠いのか?」
「あれっ?」
プリシラはふしぎそうに俺から離れる。
それから上目遣いで尋ねてくる。
「あ、あのー。スセリさまのときのようにどきっとしませんでした?」
「い、いや……特には」
「そ、そんなぁ……」
がっくりと肩を落とす。
もしかして、スセリのマネをして俺を誘惑しようとした……?
だとしたら、残念だがそれは失敗に終わった。
ただ、プリシラに魅力がないかといえばそれは違う。
プリシラは『美しい』というよりも『かわいい』と表現したほうが正しい。
妹のようなかわいさだ。
本人にとっては不本意かもしれないが。
諦めきれなかったのか、プリシラが俺に詰め寄ってくる。
そしてこう主張した。
「わっ、わたし、お料理が得意ですっ」
「そ、それは知ってるぞ」
「家事全般もできますっ。メイドですのでっ」
「あ、ああ……」
「スセリさまはお料理はできますか?」
「ん? なにか言ったか?」
窓から身を乗り出していたスセリが身体を引っ込め、プリシラのほうを向く。
「スセリさま、お料理は得意ですか?」
「さっぱりできんぞ」
「部屋の掃除や洗濯はどうです?」
「するわけなかろう。そんな面倒なこと」
「そうですかっ」
「なぜよろこんでおるのじゃ」
スセリに勝るものを見つけたからか、プリシラは得意げな顔をしていた。
「アッシュさまっ。わたくしと共にいてくだされば、ずぅーっとおいしい料理を作ってさしあげますよっ。服もベッドのシーツもきれいに洗ってみせますっ」
「ああ。ありがとう。頼りにしてるぞ」
俺はプリシラの頭をなでた。
「てへへ」
彼女はとても気持ちよさそうに目をつむっていた。
視線を感じて前を向くと、スセリがジト目で俺のことを見ていた。
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