16-5
俺とスセリとプリシラは馬車に乗り込む。
「あのっ。アッシュさん!」
「これっきりの別れじゃない。また遊びに来る」
「そ、それはうれしいのですが……」
もじもじとするディア。
なにか言いたげなようす。
「け、結婚の件、真剣に考えていただけたら……」
うっ……。おぼえていたのか……。
「あ、ああ……。けど、あまり期待はしないで――」
「いえ! 期待して待っていますっ!」
「ええっ!?」
「はわわわ……」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
おたおたするプリシラ。
愉快そうに笑うスセリ。
ディアは真剣な表情で俺を見つめていた。
「アッシュさん。もし、あなたの居場所が見つからなかったときは、わたくしのことを思い出してください。わたくし、あなたの居場所になりたいのです」
俺の居場所……。
「……ありがとう。ディア」
「待っていますから」
御者が手綱を鳴らすと、馬車はゆっくりと走り出した。
ガルディア家の屋敷の姿がだんだんと遠退いていく。
門の前に立って俺たちを見送っているディアの姿がみるみる小さくなっていく。
やがて馬車は針葉樹林の中へと入り、屋敷もディアも完全に見えなくなった。
ポーチから袋を出す。
そして袋の中に手を入れ、中身を取った。
蒼の宝珠セオソフィー。
紅の宝珠フィロソフィー。
セヴリーヌに貸す約束した、ガルディア家の家宝だ。
特別な魔力が宿っていると彼女は言っていた。
「スセリ。セオソフィーに特別な魔力が宿っているっていうのは本当か?」
「フィロソフィーからも感じるのじゃ。通常とは異なる性質の魔力を感じる。それがなにを意味するかまではわからんがな」
その正体をクロノスは知りたがっていた。
だが、クロノスは魔術師じゃない。
ガルディア家の家宝に特別な魔力が宿っていると教えたのはナイトホークだろうか。
クロノスがなにを企んでいたのか知らないが、ヤツは今、地下牢の中。
そのとき、俺はふとあることに気付いた。
「なあ、スセリ。もしかして、ディアと出会ったばかりの頃の時点で、ディアがフィロソフィーを持っていたことに気付いていたのか?」
「なにか魔力を宿した物を所持していることには気付いておったのじゃ」
やっぱり。
「どうして教えてくれなかったんだ」
「ディアが隠しておったからじゃよ。それともアッシュ。おぬしはあの娘のなにもかもを知りたがっていたのかのう?」
「そ、そういうわけじゃないが、スセリからすれば、ディアはかなり怪しい人間に見えたんじゃないか?」
「ただの家出娘ではないことは察しおったのじゃ。のじゃじゃじゃじゃっ」