16-4
「ナイトホーク、覚悟するのですっ」
プリシラがロッドを構える。
しかし、ナイトホークは戦いの構えを取らず、その場に無造作に立っていた。
「お前たちがここにいるということは、ベヒーモスを退けたのか」
「アッシュさまがやっつけたのです」
「ほう。『オーレオール』が無ければ『出来損ない』にすぎないと思っていたが、どうやら過小評価していたようだ」
――出来損ない。
俺がそう呼ばれていたのを知っている……?
ランフォード家に関わりのある人間なのか、ナイトホークは。
「お前の雇い主のクロノスもディアに敗れた。観念しろ」
「やはり奴はただの小物だったか」
クロノスが負けたと知ってもナイトホークは全く意に介していなかった。
他の傭兵たちと同じく、こいつも金で雇われただけの関係なのだろう。
ナイトホークは俺たちに背を向ける。
「逃げるのですかっ」
プリシラにそう言われると、首を少しひねらせて顔半分をこちらに向ける。
刃物のごとく鋭い視線にプリシラは身をすくませる。
「戦うというのならそれでも構わんぞ。だが、今度は命を覚悟するのだな」
「……プリシラ。武器を下ろせ」
「は、はい……」
スセリを無事に助け出せた以上、ナイトホークと戦う理由はない。まして、前の戦いではまるで歯が立たなかった相手だ。ナイトホークが引き下がるというのなら、俺たちはそれを見逃すべきだ。
「万能の魔書『オーレオール』。必ず我が物にしてみせる」
そう言い残してナイトホークは夜の闇の奥へと消えていった。
俺たちもガルディア家の屋敷に戻ったのであった。
翌日。
俺とスセリとプリシラはガルディア家の門の前にいた。
門の前には馬車も停まっている。
「やはりケルタスに戻られるのですね」
今度はディアは見送る側になっていた。
ガルディア家を取り戻した今、ディアはここに残らなくてはならない。
「『夏のクジラ亭』でクラリッサさんとヴィットリオさんが待ってるだろうからな」
「そう……ですね」
ディアは名残惜しげな表情をしている。
俺たちについていきたいのか。
もしくは、俺たちにここに留まっていてほしいのか。
「あのっ。アッシュさんたちがよろしければ、この屋敷で暮らしてはどうでしょうか。セヴリーヌさんもここに呼んで、それでスセリさんの新たな身体を――」
「遠慮するのじゃ」
俺たちの代わりにスセリがそう答えた。
「ここはガルディア家の住む場所じゃ。家とは家族で住むもの」
「ですが……」
「ディアよ。おぬしはガルディア家次期当主として、一人でやっていかねばならぬのじゃ。ワシもランフォード家を興した身。孤独なのはよくわかっておる。じゃが、部外者の助けを借りては、いつまでたっても一人前にはなれんぞ」
「……はい」