16-3
赤、青、黄、緑……。
空が色とりどりに光る。
光ったのはほんのわずかの時間で、それからすぐに夜は暗闇を取り戻した。
「な、なんですか今のは……」
夜空を見渡す俺たち。
すると再び空が色とりどりに光った。
「花火ですっ」
プリシラが山のある方角の空を指さした。
皆、一斉にそちらを振り向く。
彼女が示した空に光の花が咲いていて、儚く散っていった。
祭りでもないのにどうして花火が……。
訝っている間にも、二度、三度と花火が空に打ち上がって夜空を彩る。
美しい花火のはずなのに、どうしてかそれは俺に胸騒ぎを起こさせた。
「花火が打ち上げられた場所へ行ってみよう、プリシラ」
「承知しましたっ」
「わたくしも――」
「ディアはここに残るんだ。クロノスを放っておくのはまずい」
そこにちょうど、兵士がクロノスを連れてきた。
クロノスは両手を縛られて拘束されていた。
ベヒーモスの体当たりをくらったせいか、あるいはガルディア家を乗っ取る野望がくじかれたせいか、ぐったりとしていて生気がない。抵抗する気配もなく、姉のディアを一瞥するも、特になにも言うことなくうなだれた。
クロワッサンみたいな前髪もだらんと垂れている。
「クロノスとの戦いで屋敷の人たちは混乱している。それを治めるのは次期当主の役目だ。パスティア卿も心配しているだろうしな」
「……そうですね。わかりました」
ガルディア家の屋敷にディアを残し、俺とプリシラの二人で花火が打ち上げられた場所へと向かった。
ランプの小さな明かりを頼りに野道を歩く。
鳥たちは眠り、夜風に木の枝がそよぐ静かな音だけが聞こえる。
その静寂は突然破られた。
遠くのほうで爆発音が聞こえた。
それとほぼ同時に、閃光が夜の暗闇を一瞬かき消した。
プリシラが獣耳をぴんと立てる。
「戦いです! 誰と誰かが戦っています!」
俺たちは音と光のした方へ急いだ。
野道をひたすら駆ける。
その間にも爆発音と閃光が何度も起きていた。
やがて暗い野道の向こうに人の姿が見えた。
二人の人間が魔法を撃ち合って戦っている。
「スセリさまとナイトホークですっ」
スセリとナイトホークは互いに中距離から光弾を撃ち合っていた。
「スセリ!」
「遅いのじゃ、アッシュ!」
俺とプリシラはスセリのほうへ駆け寄る。
スセリとナイトホークは戦いの手を止める。
「あの花火はスセリが打ち上げたのか」
「そうじゃ。おぬしらにワシの位置を示すために光の魔法を空に放ったのじゃ」
スセリの手には魔書『オーレオール』があった。
ナイトホークから取り返したのか。
「こやつが油断するまで『オーレオール』の中に潜んでいて、不意をついて実体化して『オーレオール』を奪い返したのじゃ」
「……よもや、魔書の中に魂を宿していたとはな」
ナイトホークは無表情――いや、無感情にそう言う。
まるで石像がわずかな意思を持ってしゃべっているかのようだ。
スセリが『オーレオール』を俺に渡す。
「危ないところじゃった。魔力が残りわずかだったのじゃ」
スセリの姿が薄くなり、やがて完全に消滅し、魂は『オーレオール』の中へと戻った。