16-2
「ていていてーいっ」
「グオオンッ!」
打ち下ろされるロッド。
振り回されるツノ。振り下ろされる巨腕の爪。
プリシラとベヒーモスの攻防が続く。
プリシラが接近戦をしてくれているおかげで、ベヒーモスはその場にとどまっており、突進をしてこない。
プリシラに気をとられている今が好機。
俺は目を閉じ、精神を集中させる。
頭の中に思い描く――鋭き剣の刃を。
『オーレオール』が無くても俺は戦える。
『出来損ない』ではないことをこの場で証明してみせる。
頭の中に描かれたぼんやりとした刃の姿が鮮明になってくる。
そしてとうとう、その輪郭がはっきりとなった。
目を見開く。
「プリシラ! 俺のところまでベヒーモスをおびき寄せるんだ!」
「かしこまりましたっ」
プリシラがベヒーモスの頭を蹴って軽やかに飛び上がり、ベヒーモスの背後に着地する。そして俺のところまで駆け寄ってきた。
ベヒーモスが振り返る。
「あとは俺にまかせろ」
「はいっ」
頭を下げ、ツノを水平に構えるベヒーモス。
そして猛烈な勢いで俺に向かって突撃してきた。
狙い通りだ。
「来たれ!」
そう唱えた刹那、俺の正面に巨大な剣の刃が召喚された。
ただの剣ではない。
巨人が持つような大きな剣の刃だ。
その切っ先はベヒーモスに向けられ、勢いよく射出された。
ベヒーモスはそのまま剣の切っ先に突っ込んできた。
激突する巨獣と大剣の刃。
ベヒーモスの目に刃が突き刺さる。
突進の勢いがアダとなり、刃は眼球を破壊して頭部に深々と沈んでいった。
頭部を貫き、喉を経て、背中から切っ先が飛び出る。
間違いなく致命の一撃だ。
「ゴオオオオオッ!」
横倒しになり、のたうち回るベヒーモス。
四つの足をばたつかせてもがき苦しんでいる。
巨大な剣の刃に串刺しにされたベヒーモスは、苦悶の鳴き声と共にしばらくその場でじたばたしていたが、やがて動かなくなった。
絶命したことにより、召喚魔法が解かれたベヒーモスは跡形も残さず消滅した。
夜に静けさが舞い戻る。
「怪物がいなくなったぞ……」
「や、やっつけたのか……?」
どよめく兵士たち。
召喚術を見たことがないからだろう。つい先ほどまで暴れまわっていた巨獣が突然いなくなって困惑している。
「アッシュさん!」
ディアが俺とプリシラのもとに駆け寄ってくる。
俺の胸に飛び込んできた。
「わたくし、信じていました」
痛いくらいの抱擁。
俺は苦笑する。
いつもプリシラにそうしているように頭をなでようとしたが、彼女の年齢を思い出し、それはやめることにした。
「ディア。うれしいのはわかったから、そろそろ……」
「……はっ。わたくしったら」
兵士たちが見ているのに気づいたディアは俺からぱっと離れた。
頬を染めつつはにかむ。
俺も彼女に笑い返した。
「みなさーん。アッシュさまが怪物をやっつけましたーっ」
プリシラが兵士たちに向かってそう大声で言う。
すると兵士たちは歓声を上げた。
――と、よろこんでたのも束の間、夜空が突然明るくなった。