16-1
「みなさん、下がってください! 戦うなんて無謀です!」
ディアが兵士たちに叫ぶ。
しかし、兵士たちは誰一人としてその場から動こうとはしなかった。
「我々はガルディア家の兵士」
「クローディアさまをお守りします!」
「こんな魔物、我々が倒してごらんにいれましょう!」
そう口々に彼らは言った。
だが、相手は巨大な怪物ベヒーモス。魔書『オーレオール』の魔力を利用してナイトホークが召喚した強力な召喚獣だ。並みの人間が敵う手合いではない。
召喚獣がどれほどの力を持っているのかは、召喚術の名門ランフォード家の一員だった俺がよく知っている。
戦いのために召喚するということはつもり、その魔物はそれほどの力を持っているということ。
兵士たちが束になってかかったとしても、いたずらに犠牲を出すだけだ。
「俺が相手になる!」
仮にこの巨獣と互角に戦える者がいるとすれば、それは魔法の使える魔術師。
そしてこの中で魔法が使えるのはおそらく、俺一人だ。
『出来損ない』と言われた俺の召喚術が、窮地を脱する唯一の可能性なのだ。
「わたくしもアッシュさまのメイドとして戦いますっ」
俺とプリシラは兵士たちによる包囲の内側に入り、ベヒーモスと対峙した。
ベヒーモスは俺とプリシラを敵と認識した。
これでいい。
あとは自分の力を、そしてプリシラを信じるだけだ。
俺は決して『出来損ない』ではない。
「アッシュさん、プリシラさん。どうかお願いします」
ディアが祈るように両手を握り合わせていた。
「グオオオオッ!」
火山の噴火のごとき咆哮と共にベヒーモスが突撃してくる。
俺とプリシラは真横に飛びのいて回避する。
突進の先にいた兵士たちも包囲の輪を崩して退避する。
ベヒーモスは中庭の大木に衝突した。
ズシン!
地面が左右に激しく揺れる。
そしてミシミシと音を立てながら大木が根元から倒れた。
あんな突進を食らったらひとたまりもない。
のそり。
ベヒーモスがこちらを振り返る。
大木に激突したというのに平然としている。
このようすでは、通常の剣や槍も通じないだろう。
……そう。『通常』の武器なら。
「プリシラ、しばらくおとりになってくれるか」
俺たちの後ろには屋敷がある。
今度突進されたら屋敷を巻き込んでしまう。
屋敷の中に突っ込んで暴れられたら被害は甚大だし、俺たちもまともに戦えなくなる。
「ベヒーモス、こっちですっ」
プリシラがベヒーモスの側面にまわり、石ころを投げた。
石ころはベヒーモスの頭に当たる。
ベヒーモスの狙いがプリシラに向いた。
その隙に俺は挟み撃ちするかたちでベヒーモスの背後をとった。
「ていやーっ」
プリシラはベヒーモスに肉薄し、ロッドを頭に叩きつける。
しかし、ベヒーモスはびくともしない。
ベヒーモスが反撃を繰り出す。
頭を振り上げて、ツノで攻撃する。
それをプリシラは紙一重でよけた。