15-6
ガルディア家の兵士たちを味方につけた俺たちは、いよいよ屋敷の中へと乗り込んだ。
屋敷の中にはすでに多数の兵士たちが集まっていて、ディアの合図を待っていた。
「行きましょう」
俺とプリシラとディアは兵士たちを引き連れて、クロノスのいる部屋へと向かった。
クロノスは今、食堂にいるのだという。
まだ寝ていないのは誤算だったが、これだけ味方がいるのなら構わない。
「なっ!? 貴様ら!」
食堂の前を守っていたクロノスの傭兵二人が声を上げる。
俺たちがぞろぞろと兵士を連れて現れて驚愕している。
「どうやって牢を抜け出した!」
「武器を捨てなさい。さもなくば力ずくで通ります」
傭兵二人は腰の剣を抜こうとするも、二十人近くいる兵士を前にして無力をさとり、鞘に入ったままの剣を床に放り投げた。
兵士たちが二人の傭兵を拘束する。
「よし、入るぞ!」
俺は食堂の扉を力いっぱい開け放った。
食堂には残り八人の傭兵が等間隔で立っていて、クロノスはナイトホークを従えて最奥の上席に座っていた。
本来ならばそこはガルディア家当主が座る席。
そこにクロノスは肘をついてだらしなく座っていたが、俺たちが現れるや、ぎょっとして立ち上がった。
「姉上だと!?」
傭兵たちが一斉に剣を手にしてクロノスを囲んで護衛する。
「クロノス! 覚悟しなさい!」
「お前ら、裏切ったな!」
クロノスは俺たちの背後にいる兵士たちに叫んだ。
「僕に歯向かったらどうなるかわかっているんだろうな! さっさと姉上たちを捕まえろ!」
クロノスが必死に命令するも、それに応じる兵士は一人としていなかった。
皆、クロノスを静かににらみつけている。
たじろぐクロノス。
さすがのクロノスもこの数では勝ち目がないとわかったのか、傭兵たちに攻撃を指示しようとはしなかった。
「ナイトホーク!」
後ろに立つナイトホークに助けを求める。
しかし、ナイトホークはクロノスを無表情で見ているだけ。
そして冷たくこう言った。
「ここまで人望が無いとは、呆れ果てた。このザマで当主になるつもりだったのか」
「そんなことはどうでもいい! お前の魔法でこいつらを皆殺しにしろ!」
「断る」
「なにぃ!?」
クロノスは歯をむき出してテーブルを叩く。
ナイトホークはやはり無表情を保っている。
「魔書『オーレオール』を手に入れた今、お前に付き合う義理は無い」
ナイトホークの手には『オーレオール』があった。
「醜い身内同士の争い。人間とはやはり不完全な生物だ」
「ふざけるな! お前には高いカネを払ったんだ! 払った分だけ働きやがれ! ナイトホーク! こいつらを殺せーッ!」
狂ったように叫んだクロノスは、ぜえぜえと肩で息をする。
ナイトホークはしばし沈黙する。
「……まあ、いいだろう。『オーレオール』の魔力を確かめるにはちょうどいい」
それから彼は指をパチンッと鳴らし、「来たれ」と唱えた。
俺たちとクロノスの中間ほどの位置に巨大な魔法円が出現する。
そしてそこから魔物が現れた。
召喚術!
真下にあったテーブルを踏みつぶして現れた魔物は、巨大な四つ足の怪物だった。
獅子よりひと回りほど大きな体躯。
どう猛な顔つき。
頭にはねじれたツノが二本、生えている。
「ベヒーモスよ、存分に暴れまわれ」
「グオオオオオッ!」
ベヒーモスと呼ばれた魔物は鼓膜を震わす咆哮を上げた。