表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/838

15-4

 どうやらセベスはクロノスの傭兵ではないらしい。

 しかも、ディアに対して友好的だ。

 暗闇に一筋の光明が差し込んできた。


「セベス。お願いです。牢を開けてください」

「……それは、できません。クロノスさまのご命令ですので」


 力なく首を横に振るセベス。

 苦しげなその表情から彼の葛藤が読み取れた。


「わたくしはクロノスを倒すため、ガルディア家に戻ってきました。わたくしこそ正当なるガルディア家の次期当主。クロノスの命令に従う必要はありません」


 押し黙るセベス。

 しばらく黙りこくった後、彼は再び首を横に振った。


「自分には家族がいますので」

「……そうですか。無理を言いましたね」


 そう言われてはディアもこれ以上要求はできなかった。

 一筋の光明はあっけなく消え、俺たちはまた無明の闇のただなかに立ち尽くすこととなった。


 こんなとき、魔法が使えれば……。

 魔法……。

 魔法!

 そうだ! 俺は『オーレオール』が無くても魔法が使えたんだ!

 召喚術が。


 『出来損ない』と呼ばれていたせいで自然と記憶の外に追いやっていたのか、すっかり忘れてしまっていた。

 俺は金属を召喚する魔法が使えるのだ。

 金属――すなわち、牢屋を開けるカギを召喚できる。


 俺は目を閉じ、心の中で思い描く――牢屋のカギを。

 ぼんやりともやのかかっていたその形が、だんだんと鮮明になっていく。

 そしてその形が明らかになったとき、俺は小さく唱えた。


「……来たれ」


 空中に魔法円が描かれる。

 そしてその魔法円から鍵束が出現し、俺の手のひらの上に落ちた。


「アッシュさま!」

「それは!」

「しっ」


 俺は口元に指を添え「静かに」と小声で言う。

 慌てて口元を押えるプリシラとディア。


「俺が牢屋のカギを召喚した。これで鉄格子を開けられるはずだ」

「さすがですっ。アッシュさまっ」

「ですが、牢の前には見張りが……セベスがいます」


 俺はセベスのほうを見る。

 ちょうど彼も俺たちのことを見ていて、目が合った。

 慌てて目をそらすセベス。

 それから彼はその場に腰を下ろし、壁にもたれかかった。

 そしてこう、独り言を言った。


「……自分は今、居眠りをしています。ここで起きたことはなにも知りません」

「……ありがとう。セベス」

「感謝します。セベス」

「クローディアさま。どうかご無事で」


 セベスの厚意を無駄にするわけにはいかない。

 俺は鍵束から一本ずつカギを取り出し、鉄格子の鍵穴にさし込んでいく。

 何本目かでカギが合い、鉄格子の施錠が外れた。


 ギィ、と音を立てながら鉄格子が開く。

 俺とプリシラとディアは忍び足で牢屋を抜け出した。


 音を立てないよう、慎重な足取りで階段を上り、外に出る。

 牢屋を出た先はガルディア家の庭だった。

 すぐ目の前に屋敷がある。


 日はとうに没し、夜になっていた。

 星明りの下の庭は暗く、俺たちが歩いたところで見つかりはしないだろう。


「裏口はあちらです。そこから屋敷に入りましょう」

「待て、ディア」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ