15-4
どうやらセベスはクロノスの傭兵ではないらしい。
しかも、ディアに対して友好的だ。
暗闇に一筋の光明が差し込んできた。
「セベス。お願いです。牢を開けてください」
「……それは、できません。クロノスさまのご命令ですので」
力なく首を横に振るセベス。
苦しげなその表情から彼の葛藤が読み取れた。
「わたくしはクロノスを倒すため、ガルディア家に戻ってきました。わたくしこそ正当なるガルディア家の次期当主。クロノスの命令に従う必要はありません」
押し黙るセベス。
しばらく黙りこくった後、彼は再び首を横に振った。
「自分には家族がいますので」
「……そうですか。無理を言いましたね」
そう言われてはディアもこれ以上要求はできなかった。
一筋の光明はあっけなく消え、俺たちはまた無明の闇のただなかに立ち尽くすこととなった。
こんなとき、魔法が使えれば……。
魔法……。
魔法!
そうだ! 俺は『オーレオール』が無くても魔法が使えたんだ!
召喚術が。
『出来損ない』と呼ばれていたせいで自然と記憶の外に追いやっていたのか、すっかり忘れてしまっていた。
俺は金属を召喚する魔法が使えるのだ。
金属――すなわち、牢屋を開けるカギを召喚できる。
俺は目を閉じ、心の中で思い描く――牢屋のカギを。
ぼんやりともやのかかっていたその形が、だんだんと鮮明になっていく。
そしてその形が明らかになったとき、俺は小さく唱えた。
「……来たれ」
空中に魔法円が描かれる。
そしてその魔法円から鍵束が出現し、俺の手のひらの上に落ちた。
「アッシュさま!」
「それは!」
「しっ」
俺は口元に指を添え「静かに」と小声で言う。
慌てて口元を押えるプリシラとディア。
「俺が牢屋のカギを召喚した。これで鉄格子を開けられるはずだ」
「さすがですっ。アッシュさまっ」
「ですが、牢の前には見張りが……セベスがいます」
俺はセベスのほうを見る。
ちょうど彼も俺たちのことを見ていて、目が合った。
慌てて目をそらすセベス。
それから彼はその場に腰を下ろし、壁にもたれかかった。
そしてこう、独り言を言った。
「……自分は今、居眠りをしています。ここで起きたことはなにも知りません」
「……ありがとう。セベス」
「感謝します。セベス」
「クローディアさま。どうかご無事で」
セベスの厚意を無駄にするわけにはいかない。
俺は鍵束から一本ずつカギを取り出し、鉄格子の鍵穴にさし込んでいく。
何本目かでカギが合い、鉄格子の施錠が外れた。
ギィ、と音を立てながら鉄格子が開く。
俺とプリシラとディアは忍び足で牢屋を抜け出した。
音を立てないよう、慎重な足取りで階段を上り、外に出る。
牢屋を出た先はガルディア家の庭だった。
すぐ目の前に屋敷がある。
日はとうに没し、夜になっていた。
星明りの下の庭は暗く、俺たちが歩いたところで見つかりはしないだろう。
「裏口はあちらです。そこから屋敷に入りましょう」
「待て、ディア」