15-3
くるり。
きびすを返すクロノスとナイトホーク。
「それじゃあ、処刑台で会おうね。クローディア姉さん」
高笑いを上げながらクロノスは俺たちの前から去っていった。
地下牢に反響する笑い声が徐々に遠退き、やがて消える。
クロノスがいなくなってからも、ナイトホークはなぜかその場に残っていた。
鉄格子越しに俺たちをじっと見つめている。鋭くとがれた刃のような眼で。
いや、俺『たち』ではない。
明確に俺を見ている。
ナイトホークの口が動く。
「お前がランフォード家の末裔――『オーレオール』に選ばれし者か」
「だったらどうだっていうんだ」
ナイトホークは答えず、俺たちに背を向ける。
そしてその場から立ち去ってしまった。
訪れる静寂。
壁に掛けられたランプが唯一の明かりの、薄暗い地下牢。
空気は湿っていて不快。
鼻をすする音がする。
振り返ると、プリシラが牢屋の隅で膝を抱いて座っていて、嗚咽を漏らしていた。
自分のせいで俺たちが捕まったのだと責任を感じているらしい。
「プリシラはよくがんばったよ」
「ですが、アッシュさま……」
「クロノスはともかく、ナイトホークは手練れの魔術師だった。はなから俺たちの敵う相手じゃなかったんだ」
「そうです、プリシラさん。もとはといえばわたくしが――」
「おっと、ディアのせいでもないからな」
「……はい」
そう答えながらも、ディアは俺たちをこのような事態に巻き込んだ責任を感じているようすだった。
そのとき、プリシラがいきなり腰を上げ、鉄格子の前に立った。
そして鉄格子を両手でつかみ、歯を食いしばって力を込め、鉄格子をこじ開けようとした。
当たり前だが、太い鉄格子はびくともしなかった。
身体能力の高い半獣とはいえさすがにこれは無理だろう。
「こんなときにご主人さまのお力になれないなんて、メイド失格です……」
うなだれるプリシラ。
頭のてっぺんに生える二つの獣耳もだらんと垂れていた。
なんとかしてこの窮地を脱しないと、俺たちは明日の朝、クロノスによって処刑されてしまう。
せめてスセリさえいれば、魔書『オーレオール』さえあれば、魔法を使って鉄格子を破壊できるのに……。
スセリは――『オーレオール』は今、ナイトホークの手にある。
スセリの身も心配だ。
「あなた! そこのあなた!」
そんなときだった。ディアが牢の前に立つ番兵に声をかけたのは。
「あなた、もしかしてセベスではありませんか」
「……」
セベスと呼ばれた番兵は俺たちに背を向けたまま無言を貫いている。
ディアの声は聞こえているはず。
彼はあえて無視している。
「セベスなら返事をしてください」
「……はい。自分はセベスです」
良心がそうさせたのか、ついに彼は返事をした。
俺たちのほうに向きなおるセベス。
「自分の顔をおぼえていてくださっていたのですね。クローディアさま」
「もちろんです。お父さまが外に出るときの護衛としていつもついていましたよね」
にこりと微笑むディア。
それにつられてセベスも笑みをこぼした。
ディアに顔と名前をおぼえてもらえていたのがうれしかったようだ。