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40.未来は地続き(完)

「それが凄いんだよ。まあ言ってしまえば単なるギャルゲーなんだけどさ、面白いのは、参加するユーザーがNPCキャラのAIを作成できるところなんだ」

 机の上に座って須藤くんが熱心に話しているのは、最近流行のオンラインゲームのことでした。いつもの仲間が集まって話半分にそれを聞いています。

「趣味とか性格とか、見た目とか、フォームに沿って選択肢を選んでるだけでも簡単にキャラをエディットできるんだけど、知識のある奴は自分で組んだプログラムをアップロードしてもっと高度な判断が出来るキャラクターを作ってる。そうやって全国の腕に自信のある奴らが組んだAIで動くキャラクターがゲームの中の色んなところにいてさ、AIとか作れない奴は、プレイヤーとしてゲームの中でAIキャラと仲良くなるのが目的なわけ。センスのいい奴が作ったAIはゲームなのにマジで可愛くてさ、攻略する方も熱が入っちゃうんだよな」

 それから俺の攻略しようとしてるキャラはこれこれこんなんで、AIで動いてるとは思えないほど生き生きしていて……と熱くなって語りつづける須藤くんに、清一くんが冷たい言葉を放ちました。

「ゲーム相手に何言ってんの」

 関くんが「そうそう」と頷きます。「須藤ももっと現実見据えた方がいいよ」と、隣に蔵持さんを連れた関くんにそう言われては悔しさも倍増で、須藤くんは「ごわー!」と変な声で叫んで机から派手に転落しました。

「それより聞いてくれよ、なんかこの前からモブ子が一日三十通くらいメールしてくるんだけど、どうしたらいい?」

 蔵持さんが嫌そうな顔で言いました。

「へえ? 仲良くなったの?」

 相変わらず若干ズレている関くん。

「んなわけねーだろ! もう途中から面倒臭くなって返信してないのに、全然止まらないんだよ。怖いよー。ストーカーだよー。なんとかしろよ総次郎!」

 珍しく弱気な蔵持さんに袖を引っ張られるも、関くんはオロオロしながら「あはは……」と曖昧に笑うだけ。

「あ、そうだ大島くん、なんとかしてやってよ!」

 と、挙句に人だのみです。大島くんは腕を組み、ニヤリと不敵に笑って一言。

「断る」

 清一くん達のグループがそんな感じでわいわいやっていると、音も立てずに近づいてくる人影がありました。吊り上った目でジロリとみんなを順番に睨みつけるその影の正体は仁名村さん。

 皆がそれに気づいて何事かと思っていると、仁名村さんは亡霊のようにユラリと歩いてきて、清一くんの隣まで来ると、近くにあった空いている椅子を引き寄せ、ガタンと音を立てて座りました。

「あ、あの!」

 鼻息も荒く清一くんに話しかけます。

「す……好きな食べ物はなんですか……」

 皆がわけがわからず顔を見合わせる一方、遠くの席には巣立っていく我が子を見守る親鳥のような目をした西口さんの姿。

 しかし清一くんが何か答える前に、エメトがニヤニヤしながら口を挟みました。

「清一さんはカレーとか好きですよね。でも食べるより作るほうが上手です。昨日は私も呼ばれました」

「お、お、お、お前には聞いてないよ!」

「美味しかったですよ、すごく」

「ううっ、うううっ、うううーうー!」

 仁名村さんは歯を食いしばって目に涙を浮かべ、清一くんは「おいおい」とエメトと仁名村さんの顔を見比べ、エメトはニヤニヤしつづけます。

「清一くん! こんなやつ」何かを叫びかけた仁名村さんの頭を押しのけて、突然八夜越さんがやってきました。

「かなえちゃん! ヤッホー」

「うわ! 来た!」

 今度は蔵持さんが叫びます。

「かなえちゃん、今日学校終わったら一緒に遊びに行こうよ! ちょっと遠いけど美味しいクレープ食べれるお店知ってるの!」

「いや、ほら、今日はさ、アレだよ、総次郎と予定があるからさ、な! 総次郎!」

「え? ああ、うん」

「じゃあ私も行く!」

「っなんでだよ! おめえはよ! ちったあ空気読めよ!」

「ねぇいいでしょー?」

 蔵持さんはバーンと椅子をハネのけて立ち上がり、「逃げるぞ! 総次郎!」と関くんの腕を引っ張って逃走しました。八夜越さんもそれを追います。ドタバタと三人が走り、出口付近で床に座って漫画を広げていた男子数人を蹴り飛ばしそうになりながら教室を出て行きました。

 嵐が去って静かになると、エメトと仁名村さんが口ゲンカを再開しました。

「あんたさ、ちょっと性格悪いんじゃないの?」「さあ、なんのことでしょう?」「それだよそれ! スッとっぼけた顔しやがってムカつくんだよ」「まあ怖い」「清一くんは騙されてるんだ!」

 不毛な言い合いが続く傍らで、須藤くんが机にアゴをのせてふて腐れています。

「清一、お前も総もいいよなあ。人がゲームに夢中になってる時に充実した青春を送りやがって。俺はうらやましいよ。なんかわからんけど仁名村もお前のファンになっちまったのか? 一体俺とお前の差は何だ?」

「俺に聞くな」

 清一くんは自分を巡る女たちの争いを対岸の火事のように見守っていました。

「で、どうすんだ? 二股かけるのか? かけちゃうのか?」

 この質問に、清一くんはさして考えたようすもなく、

「そんなことしねーよ。今はもうエメトと付き合ってるんだ」

 簡単に答えました。

「おお? 今日はあっさり認めるのか」

「この前までは本当に付き合ってなかった」

「へえ……マジかよ」

 須藤くんは感心して机からアゴを離しました。こうして目の前で女の争いを繰り広げられても全く揺るがぬその意思に、そりゃモテるわけだ、なんて不覚にも思ってしまいます。

 ちなみに、この時さりげなく会話を盗み聞きしていた西口さんが、この間のエメトの『私の体、すごく精巧に作られているんですよ』という発言を思い出し、やはり急に高月くんが素直になったのはあの後……と、独りで想像力を逞しくしていたのは秘密です。

際限なく続くかと思われたエメトと仁名村さんの口ゲンカは、威勢良く扉を開けて入ってきた山田先生の「おらー、出席とるぞー」という台詞によって遮られました。その後から息を切らせて関くん達三人が帰ってきて、ヘロヘロと自分の席へ向かいます。

「いやあ、今日も平和でいいね」

 清一くんが独り言を呟くと、丁度一日の始まりを告げるチャイムが教室に鳴り響きました。




おわり。


長い間、読んでくれた人は本当にありがとうございました。

これで終わりです。

40話というキリのいいところで終わりましたね。


投稿してる間、お気に入り登録とかちょっとずつ増えていくのが楽しみでした。

今作で気に入っていただけた方は次回作もご期待ください。


……たぶんしばらくはお休みですが。

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