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25.エメト:レベル50

 十二月。雪こそまだ降らないものの、気温は刺すように冷たくなりました。電線の上にはカラス達が身を寄せ合ってたむろし、黒いランドセルを背負った子供が水溜りに張った氷を踏み砕いてはしゃいでいます。

 朝から空はよく晴れてガラス玉のように透き通っていましたが、清一くんの心はドブ川のごとくドロドロに濁っていました。それというのもエメトのこと。

昨日、清一くんがエメトと二人で帰ろうと、靴箱の前で靴を履き替えていた時、エメトが自分の靴を見て「あ」と声を漏らしました。靴の内側に、噛んだガムがべったり張り付いていたのです。それも左右とも。もしも気付かずに靴を履いていたら大変なことになるところでした。

 エメトは履く前に靴の中を確かめていたので大事には至りませんでした。こういうことは今日だけではなかったので、もう確認もせずには危なくて靴を履けないようになっていたのです。虫の死骸が入っていたり、酷いときは錆びた釘やガラスの破片が入っていたり。靴自体を盗まれたことも何度かありました。そういう時は清一くんが靴をエメトに貸して、自分は上履きで帰りました。

「こういうのもたまにはいいですね」

 清一くんの靴を履いたエメトは呑気なことを言っていましたが、清一くんは心中穏やかではありませんでした。靴に関することばかりではありません。一月ほど前からエメトの授業用のメールアドレスに、怪しげなメールが次々と届くようになりました。どうやら誰かが勝手にエメトのアドレスをどこかの出会い系サイトに登録したようなのです。同時に最新マッサージ機のカタログや、知らないネットゲームの更新情報など、身に覚えの無い告知メールがどんどん届き、日に日に増え続けるその量はついには一日百通を超えるようになってしまいました。

このアドレスは、学校行事の連絡や授業の情報を届けるために学校が生徒一人一人に用意したものだったので、必要な情報が迷惑メールに埋もれてしまって言葉どおりの大迷惑です。山田先生に頼んでアドレスを変えてもらいもしましたが、今度はそのアドレスに迷惑メールが来るようになるだけなので意味がありませんでした。結局エメト宛ての授業用メールは、学校の用意したものではない個人用アドレスに送ってもらうことになりました。

 以前、エメトのノートファイルが消された時から、こういった細かい嫌がらせがネチネチと続いています。エメト自身は、当然のことかもしれませんが全く意に介さないでいましたから、神経をすり減らすのはいつも清一くんの方でした。

 一体、あの平和なクラスの誰がこんな陰湿なことをしているのでしょうか。疑いだすとキリがありません。いっそのこと、誰か全く縁もゆかりもない部外者が犯人であって欲しいと清一くんは思いましたが、そんな人にエメトをしつこく苛める動機があるとも思えませんから、やはりクラスの中に犯人がいると考えるべきなのでしょう。

でも清一くんの見る限り、エメトはクラスメイトとも仲良くやっていました。恨みを買っていたり、露骨に爪弾きにされているようには見えません。

 モヤモヤしていました。エメトの体に傷がつけば、爪一枚でも三万円、全身で十億円。その金額を実際に清一くんが請求されることはありませんが、それでも超々高価な機材を預かる身としての責任があります。もしもの時には山田先生だって責任を問われるでしょう。

 こんなことが続いて、いつかもしエメトのボディーに何かあったら……。でも、そう思ってクラスメイトを疑ってばかりいると気分が滅入ってしまいます。当のエメトがケロリとしているだけに心労も倍増です。


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