22.関くんと蔵持さんと伊遠さん④
「とんでもない女だな、あいつ!」
蔵持さんは拳をテーブルに打ち付けました。空になった皿たちが揺れてガチンと音を立てます。
「最後に出てきた新しい彼氏については、俺も初めて見たよ。あいつもあの後色々あったってことなんだろうけど」
長い語りを終えた須藤くんは、沈痛な面持ちで既に中身の無いコップを手で弄んでいました。
伊遠椎子。中学の頃はまだファッションもいくらか控えめだったのに、今日見たときは明らかに浮いた格好になっていました。行動も輪をかけておかしくなっていたし、大学生らしき彼氏など、どこで見つけてきたのかわかりません。当時は単に悪い奴だと思っていたけれど、あいつはあいつなりに悩んでいたのだろうかと、須藤くんは珍しく真剣に考えもしました。
けれどもともかく今、彼にとって重要なのは、目の前の蔵持さんと関くんの問題です。須藤くんは蔵持さんの目を見つめ、テーブルの上に身を乗り出して言いました。
「頼むよ蔵持、この件で総を嫌いになったりしないでくれよ。高校に入ってお前に会わなきゃアイツは今でも女性不信だったかも知れないんだからな」
「当たり前だ!」
蔵持さんは怒ったように怒鳴りつけました。……しかしその直後、急に不安そうに首をすくめ、
「つうか、ぶっちゃけね、私ってアレだよな、脈ありだと思っていいんだよな?」
口をとんがらせて小さな声で、そんなことを言いました。
「はあ? 脈あり?」
「だから……関くんと……」
強気だった蔵持さんが急にもじもじする姿を見て、みんな目を丸くします。
「今さら何言ってんだお前、そんなもんあるに決まってんだろ……」
「だ、だよな、そうだよな!」
「総が何のために今日お前を誘ったと思ってたんだ」
「いやあ、私の勘違いじゃないかと、もうそればっか気になってて、ウヘヘ、へへ」
身長だけなら大島くんと並ぶ蔵持さんですが、頭を引っかきながらテレ笑いする姿はかなり小さく可愛く見えました。色々あって沈みきっていた面々ですが、その姿を見ると少し温かい気持ちになります。
しばらくぶりに、笑い声が漏れました。
「私、今夜関くんに電話してみるよ……」
「ああ、そうしてくれ」